役名 |
番号 |
台詞 |
Aスタジオ |
カメラマンと数人のスタッフがCMの撮影をしている |
スクリーンの前に立つタツキが、栄養ドリンクを片手にカメラへとウィンク |
|
タツキ |
001_001 |
元気爆発、笑顔満タン、朝からぐびっと、トージの栄養茶! |
少しの間の後、OKの声が入る |
カメラ |
002_001 |
カット―! OK、いやありがとねタツキ君、いい表情だったよ |
タツキ |
003_002 |
本当ですか? ありがとうございます |
カメラ |
004_002 |
次の仕事もお願いしちゃうかもよ |
タツキ |
005_003 |
嬉しいです、オレ頑張りますね |
カメラ |
006_003 |
うんうん。じゃあ、お疲れさまでした |
タツキ |
007_004 |
はい、お疲れさまです! |
カメラマンがスタジオを去る |
笑顔のままタツキは歩いて楽屋に入る |
扉を閉めると少し顔つきが変わるタツキ |
タツキ |
008_005 |
ふぅ |
若杉 |
009_001 |
お疲れさまです、タツキ君 |
タツキ |
010_006 |
おー |
椅子に座るタツキ |
若杉 |
011_002 |
この頃、調子いいじゃないですか |
雰囲気ががらりと変わるタツキ |
タツキ |
012_007 |
ったりめーだろ。オレがカメラの前で輝いてない日はないからな |
若杉 |
013_003 |
あーあー、素に戻るとこれですよ。楽屋だからって気を抜かないでください。ほらアイドルの仮面かぶって |
タツキ |
014_008 |
はーい、無能マネージャー。って、え? |
楽屋内にいた花粉子が喋り始める |
花粉子 |
015_001 |
ほーん、すごいんですね、人間の社会って |
タツキ |
016_009 |
おい若杉、誰だこいつ |
若杉 |
017_004 |
こちらは、花粉子(カ・フンコ)さんです。タツキ君の背後霊だって言うから連れてきたんです |
タツキ |
018_010 |
なんで超絶美形で、一分の隙もなく、女子にもてるこのオレに背後霊なんてついてんだよ。ありえねぇだろ |
若杉 |
019_005 |
え? そうなんだ。ごめんね、私、あまりキミに興味なくて |
タツキ |
020_011 |
あんたオレのマネージャーだよな!? |
言いあう二人の意識を自分に向けさせるため咳払いをする花粉子 |
花粉子 |
021_002 |
おっほん! 初めましてタツキさん、あなたの背後霊こと花粉子と申します。どうぞお見知りおきを |
タツキ |
022_012 |
おいくそマネ! やばい奴じゃねーか! |
若杉 |
023_006 |
大丈夫ですよ、梅干しみたいな被り物してますけど、人間でしょうから |
花粉子 |
024_003 |
いえ、私は花粉の精霊です。この被り物は梅干しではなく花粉の粉を拡大したものです。しかし、この頃はスギ花粉が猛威を振るってますねぇ |
タツキは相手の出方を見ている |
タツキ |
025_013 |
で? |
花粉子 |
026_004 |
そろそろタツキさんも花粉症デビューの頃だろうと思って、勧誘しにきました |
若杉 |
027_007 |
かん、ゆう? ま、まさかの引き抜き?! 駄目ですよ、その子、口と態度は悪いですけどウチの看板スターなんですから! |
花粉子 |
028_005 |
大丈夫ですよ、花粉症になってもアイドルは続けられますから |
タツキ |
029_014 |
なにも大丈夫じゃねぇよ! なんだよ花粉症の勧誘って、んなモンどー聞いたってやばいカルトじゃねぇか |
花粉子 |
030_006 |
いやですね、うちは人間が地上に住み始める前からずっと花粉専門にしてるんですよ。なめないでください |
タツキと花粉子の心の声 |
タツキ |
031_015 |
『頭がいかれてやがる。こうなったら、なんか適当に話合わせて帰す方がいいか』 |
花粉子 |
032_007 |
『これは、適当に話を合わせて帰ってもらおうとしてる顔ですね。だったら――ありったけの〜花粉を〜かき集め〜〜〜、ほいさ!!』 |
タツキに向かって魔法みたいなのを放つ花粉子 |
するとタツキは鼻がムズムズしだす |
タツキ |
033_016 |
えー、花粉子、その、な。オレは――は、はー、はーくっしょん! |
若杉 |
034_008 |
うわ、タツキ君、汚い |
タツキ |
035_017 |
わりぃ。けほけほ、なんか急に鼻がムズムズしだして |
タツキと花粉子の心の声 |
タツキ |
036_018 |
『花粉子の野郎、さっき変なポーズ取ってたけど、なんかオレにしやがったな』 |
花粉子 |
037_008 |
『やりました! これでタツキさんは花粉の虜。ぐふふふ』 |
タツキが花粉症予備軍だということに、今気づきましたーな感じを装うも、ぐふふな感じが漏れている花粉子 |
花粉子 |
038_009 |
おっほん! ああ!! やはりタツキさんは花粉症予備軍だったんですね! それが今、開花した! さあ思いきり空気を吸い込んで、ありったけの花粉をその身に集めて、レッツ花粉症デビュー! |
タツキ |
039_019 |
誰が好き好んで花粉症なんかに――ふぇ、ふぇ――へーっくしょい! |
タツキ、鼻水が垂れる |
若杉 |
040_009 |
あーあー、アイドルが鼻水ってないよー。はい、ティッシュ |
若杉が出したティッシュで鼻をかむタツキ |
タツキ |
041_020 |
あんがと、っあ゛ー! 若杉、このティッシュ硬い |
若杉 |
042_010 |
そりゃま、路上でもらったやつですから |
タツキ |
043_021 |
オレの鼻が切れたらどーすんだ |
若杉 |
044_011 |
またまたぁ、そんなもち肌してないくせに |
タツキ |
045_022 |
このくそ、あ、やば、また |
頑張って耐えるがくしゃみが出てしまうタツキ |
タツキ |
046_023 |
ふえ、っくしゅい!! |
若杉 |
047_012 |
うーん、これだと仕事にならないなぁ。花粉子さん、どうにかなりませんか? |
花粉子 |
048_010 |
と言われましても、我々も日々雌しべと合体するために頑張ってるわけですから |
タツキ |
049_024 |
黙れバケモン、花粉なんか滅んじまえ |
花粉子 |
050_011 |
そんなことしたら地球上から木々が消えて、温暖化が加速し、人間なんてぐっちゃぐちゃの、べっちゃべちゃの、ぴちょんになって死ぬんですよ |
タツキ |
051_025 |
なんだよその効果音、お前、人間をなんだと思ってんだ |
花粉子 |
052_012 |
え? 人間ですか? 私たちが飛ばす愛の粉を勝手に吸収した挙句、その所為で体調が悪くなったとかほざく下等生物です |
若杉の肩が震えだす |
若杉 |
053_013 |
っふ、ふふふふ。静かに聞いていれば言いたい放題じゃないですか |
タツキ |
054_026 |
いやお前、静かじゃなかったけど |
若杉 |
055_014 |
花粉の所為で私ら人間がどれだけ苦労しているか! |
花粉子 |
056_013 |
やはりでしたか、若杉さんは花粉症ですね |
若杉 |
057_015 |
ええ、三歳からです |
タツキ |
058_027 |
デビューはやすぎねぇか? |
勝手に語る若杉 |
若杉 |
059_016 |
あれはそう、幼き私が花畑で毎日毎晩過ごしていたある日、花粉症は発症したんです。その日から私は花粉症の奴隷となりました。奴らは毎年、決まった時季になると私の鼻を襲撃して……。っく、鼻だけならまだしも目も痒いし薬飲むと眠いし、だるいのは通常運転、時には発熱を伴って! ああ花粉が憎い! |
タツキ |
060_028 |
それ、自業自得じゃ |
花粉子 |
061_014 |
あなたもいずれああなるのですよ |
タツキ |
062_029 |
ならねーよ!! はぁ……とりあえず、花粉子は警備員に連れてってもらうってことでいいか? |
若杉 |
063_017 |
異論ありません |
花粉子 |
064_015 |
ちょ!! なんてことするんですか! 私、あなたの背後霊なんですよ? 勝手に警備員に突き出さないでください |
タツキ |
065_030 |
勝手に背後霊になるのやめてくださ―い |
警備室に電話するタツキ |
他人相手なのでアイドルの仮面をかぶっている |
タツキ |
066_031 |
あ、もしもし、警備室ですか? すみません、楽屋に変な人が来ていて |
花粉子 |
067_016 |
もし私を受け入れてくれたら、タツキさんの花粉症を和らげてあげますよ! |
タツキ |
068_032 |
は? んなモンいらね |
電話を力強く切る若杉 |
若杉の目は真剣そのもの |
若杉 |
069_018 |
お話、詳しく聴きましょう |
タツキ |
070_033 |
なにすんだよ、若杉。電話返せ |
若杉 |
071_019 |
タツキさんは花粉症をなめすぎです。ちょっとくしゃみ出るくらいって思ってるでしょう。甘いんですよ! 鼻の噛みすぎで鼻頭は赤く腫れあがり、目だってうさぎさんか? ってくらいに充血するんですよ。そんな状態でカメラの前に立てると思ってるんですか? |
タツキ |
072_034 |
や、んなの花粉子にどうにかできるレベルのモンじゃねーだろ |
若杉 |
073_020 |
いいえ、きっとできますよ。だって花粉子さんは花粉の精霊なんですから。ね! |
はてなマークを飛ばす花粉子 |
花粉子 |
074_017 |
……え? |
タツキ |
075_035 |
自分で盛った設定忘れんなくそが! |
花粉子 |
076_018 |
ああ、あそうでした! ええ、ええ。もちろんですよ。私は花粉の精霊かつタツキさんの背後霊ですからね、それくらい朝飯前です。そうだ取引しましょう! 私がタツキさんの傍にいることを許してくれるなら、タツキさんが仕事中、花粉症の症状を緩和させてあげます |
若杉 |
077_021 |
なくすことはできないんですか? |
花粉子 |
078_019 |
一度でも花粉症デビューしちゃうとその恩恵からは逃げられないんです |
タツキ |
079_036 |
お前が消えれば他の花粉も全部消滅するとかいう特典ねぇわけ? |
なんかちょっとカッコイイ感じに喋る花粉子 |
花粉子 |
080_020 |
っふ、たとえ私が消えたとて、新たな花粉の精霊が誕生するだけですよ |
悔しそうな若杉 |
若杉 |
081_022 |
っく、条件を呑むしかないようですね。やはり人類は花粉に屈する定めか |
タツキ |
082_037 |
お前はいちいちスケールでけぇよ |
若杉 |
083_023 |
あなただけの問題じゃないんですよ! 花粉は私の、私の!! |
花粉子 |
084_021 |
……ふう、仕方ないですね。じゃあ私がタツキさんの背後霊であり続ける限り、若杉さんの花粉症状も軽減して差し上げます、これならどう―― |
鞄から素早く書類を机に出す若杉 |
営業スマイル100% |
|
若杉 |
085_024 |
この度はわが社と契約の運びとなりましたこと、まことに嬉しく思います。ささ、こちらの書類に判を。なければ母印でも構いません、朱肉はこちらに |
タツキ |
086_038 |
行動はえぇよ。ん? 待てよ、じゃあオレ、ずっとこいつと一緒ってことか? |
若杉 |
087_025 |
新しいアイドル路線を考えないと |
タツキ |
088_039 |
冗談キツイぜ、無理に決まってんだろ |
ノック音 |
カメラマン |
089_001 |
ごめんね話し中に、入っていいかな |
びっくりするもアイドルの仮面をかぶるタツキ |
カメラマンが入ってくる |
タツキ |
090_040 |
あ、はい、どうぞ |
カメラマン |
091_002 |
さっきここの楽屋前通ったら花粉症がどうこうって聞こえてね |
若杉 |
092_026 |
あああ、ああ!! それにつきましては |
小声で会話する若杉とタツキ |
タツキ |
093_041 |
どーすんだよ、そこに立ってる花粉子。あれは誰がどの角度からどう見たって不審者にしか見えねぇぞ! |
若杉 |
094_027 |
タツキ君のアイドルオーラで吹き飛ばしてください |
タツキ |
095_042 |
無理いうな! |
カメラマン |
096_003 |
でね、次の仕事、花粉症対策グッズとかどうかなって |
タツキ |
097_043 |
あ、はい、もちろんです! 喜んで |
カメラマン |
098_004 |
そう? じゃあ上に話通しておくね |
タツキ |
099_044 |
はい、いつもありがとうございます。あ、の、こいつなんですけど |
カメラマン |
100_005 |
こいつ? 若杉マネージャーのこと? |
タツキ |
101_045 |
いえ、オレの横にいる被り物した |
カメラマン |
102_006 |
? ここには僕と君と若杉マネージャーしかいないけど? |
若杉 |
103_028 |
……え? |
タツキ |
104_046 |
……え? |
カメラマン |
105_007 |
なんだい、ドッキリしようったってそうはいかないよ |
小声で花粉子に話しかけるタツキ |
タツキ |
106_047 |
おいどうなってんだ花粉子 |
花粉子 |
107_022 |
おそらくですが、あの人、花粉症じゃないんですよ。花粉の恩恵を受けてない人に私は見えませんから |
タツキ |
108_048 |
お前のは恩恵じゃなく災害だ! |
カメラマン |
109_008 |
わわ、どうしたんだいタツキくん、大声で |
若杉 |
110_029 |
すみません! 新しい役作りをしていたもので |
カメラマン |
111_009 |
そうなんだ、アイドルも大変だね |
カメラマンの電話が鳴る |
カメラマン |
112_010 |
あ、やばい電話だ。じゃあ僕はこれで |
カメラマンが去る |
若杉 |
113_030 |
花粉症じゃない人には見えないって |
タツキ |
114_049 |
マジかよ。お前マジで人外だったのか? |
胸を張る花粉子 |
花粉子 |
115_023 |
最初からそう言ってるじゃないですか! じゃあこれから末永くよろしくお願いしますね |
若杉のモノローグ |
若杉 |
116_031 |
『その後、タツキくんの傍には梅干しの被り物をした変なモノがいると言い張るファンと、そんなものはいないと騒ぐファンが戦争のような口論をしたとかしなかったとか、おしまい』 |
END |