役名 |
番号 |
台詞 |
※『』はモノローグです |
○町中 |
とぼとぼと歩いている客 |
客 |
01_01 |
『不釣合いなのは分かってた。彼に合わせた服が私に似合わないことも、唇にひいたルージュが合わないことも。全部ぜんぶ分かってたけど――それでも、可愛いねって言ってくれる彼が好きだった』 |
客が店に入る |
店員 |
02_01 |
いらっしゃいませ |
客 |
03_02 |
あ |
客 |
04_03 |
『ふらふら歩いていたからか、つい、このお店に来てしまった。今日は彼と一緒に来るはずだったけど……私の隣に、彼の姿はない』 |
店員 |
05_02 |
……お一人様ですか? |
客 |
06_04 |
……はい |
店員 |
07_03 |
お席にご案内します |
客は椅子に座る |
客 |
08_05 |
『馬鹿だな。ここで待っても、終わった恋が戻ってくるはずないのに。無理やりな背伸びも、似合わない化粧も、もう必要ない。私は振られたんだから』 |
店員が水を持ってくる |
店員 |
09_04 |
本日のお勧めは桃のタルトです。季節限定です |
客 |
10_06 |
そうですね、ここのタルト、美味しいですよね。えっと、Aランチで |
客 |
11_07 |
『美味しいねって、また来ようねって――約束したのに』 |
店員 |
12_05 |
食後に紅茶かコーヒーが選べますが、アイスミルクティーでよろしかったでしょうか |
客 |
13_08 |
そうです、けど |
店員 |
14_06 |
あっ、すみません。よくご来店されていたので、覚えてしまって。……今日は、お連れ様は一緒じゃないんですね |
客 |
15_09 |
おつれ、さま |
客 |
16_10 |
『それは彼のことだ。もう彼と一緒にこの店に来ることはない。二度とない』 |
店員 |
17_07 |
あの……大丈夫ですか? |
客 |
18_11 |
え? な、にが、ですか? |
店員 |
19_08 |
……涙が。僕、気に障るようなことを言ってしまいましたか? |
客 |
20_12 |
わ、わ? あ、ははは。ごめんなさい、泣くなんて、どうしたんだろう。あはは、びっくりしますよね、すみません |
店員 |
21_09 |
……無理に笑わなくてもいいんですよ? |
客 |
22_13 |
無理じゃないですよ。すぐとまりますから。ごめんなさい |
店員 |
23_10 |
……少々お待ちください |
客 |
24_14 |
『うわ、やっちゃった。泣くつもりなんてなかったのに。店員さん、困ってたよね。なんでだろう、どうして振られたときじゃなくて、こんなところで泣くんだろう。あ、駄目だ、とめないといけないのに、涙とまらない』 |
店員 |
25_11 |
こちらをお使いください |
客 |
26_15 |
これ、ハンカチ? ……店員さんの? |
店員 |
27_12 |
私物ですが、今日はまだ使ってないので |
客 |
28_16 |
悪いですよ。私、お化粧してるし。今日はもう、帰りますね |
店員 |
29_13 |
使ってください。そんな顔で外に出たら、道行く人に驚かれますよ? |
客 |
30_17 |
でも、私がここで泣いてたら、入ってきたお客さんがびっくりします |
店員 |
31_14 |
それなら大丈夫です。先ほどクローズの看板を出しておきましたから |
客 |
32_18 |
そんな、迷惑かけられません。帰りますから |
店員 |
33_15 |
うちのタルト、美味しいって言ってくれましたよね |
客 |
34_19 |
それは、そうですけど |
店員 |
35_16 |
――どうぞ、苺のタルトです |
客 |
36_20 |
あの、頼んでませんよ? |
店員 |
37_17 |
苺のタルト、お好きなんですよね? いつも注文してくださって |
客 |
38_21 |
……ごめんなさい、私、苺は好きじゃないんです |
店員 |
39_18 |
そうだったんですか? |
客 |
40_22 |
彼が、苺、好きだから。同じ味を好きになりたくて。服も、化粧も、喋り方も頑張ってたんですけど……振られちゃって |
店員 |
41_19 |
…… |
客 |
42_23 |
無理してるのが、ばれたから。呆れられたんです。に、似合わないのに、高いヒールはいたり、アイライン引いたり。でも |
店員 |
43_20 |
その人のこと、好きだったんですね |
客 |
44_24 |
好き、だった……! 同じものを、美味しいねって言って、食べたくて。でも苺、好きになれなくて。我慢してたから。だから |
店員 |
45_21 |
じゃああなたは、どんな果物がお好きなんですか? |
客 |
46_25 |
私、ですか? 私は……柑橘系の、蜜柑とか、グレープフルーツとか |
店員 |
47_22 |
かしこまりました。少々お待ちください |
客 |
48_26 |
『なに言ってるんだろう。店員さんにこんなこと言ったって仕方ないのに。ああもう、最悪だよ』 |
店員 |
49_23 |
お待たせいたしました。蜜柑のタルトです |
客 |
50_27 |
えっと |
店員 |
51_24 |
好きなタルトを食べてもらいたいので。どうぞ、美味しいですよ、蜜柑のタルトも僕の一押しです |
客 |
52_28 |
でも |
店員 |
53_25 |
どうぞ。一口だけでも |
客 |
54_29 |
じゃあ。はく……うん、美味しいです。……美味しいなぁ |
店員 |
55_26 |
それはよかった。ランチも食ませんか? ご飯を食べると、幸せになりますし、元気になれますよ? |
客 |
56_30 |
……お願いします |
店員 |
57_27 |
かしこまりました |
客 |
58_31 |
『なにしてるんだろう。失恋して、ご飯食べて。失恋太りとか、するのかな』 |
店員 |
59_28 |
お待たせしました、Aランチです |
客 |
60_32 |
ありがとうございます。あの、もうお店開けてください。せっかくのお昼時なのに、閉めてたら売り上げとか |
店員 |
61_29 |
今日はいいんですよ。今日はあなただけが、この店のお客さんです |
客 |
62_33 |
そんな、店長さんに怒られますよ |
店員 |
63_30 |
僕が店長なので、大丈夫です |
客 |
64_34 |
そう、なんですか。あ、パスタ、美味しい。これアスパラだ。ベーコンも……ふう。当分、恋愛はいいかな |
店員 |
65_31 |
え!? ええっと、確かに今回はその、望む結果になりませんでしたが、恋愛は素敵なものですよ! |
客 |
66_35 |
ふふ、どうして店員さんがそんなに慌ててるんです |
店員 |
67_32 |
いえ、その。あなたが恋愛は当分いいかなと言ったので |
客 |
68_36 |
彼がいなくても、このお店には来ますよ。タルト美味しいですし |
店員 |
69_33 |
それは、とても嬉しいのですが……その、ですね。僕、あなたが好きなんです |
客 |
70_37 |
はい |
店員 |
71_34 |
はいって、それはOKって意味ですか!? |
客 |
72_38 |
え、ええ!? あ、いや、今のは弾みで応えちゃっただけで |
店員 |
73_35 |
そう、ですよね。ごめんなさい。失恋したばかりの人にこんなこと言うのは、ずるいって分かってるんですけど |
客 |
74_39 |
店員さんが、私のこと |
店員 |
75_36 |
あなたが好きです。いつも、僕が作った料理やタルトを食べて、笑ってくれるのがいいなって思ってて |
客 |
76_40 |
ごめんなさい、私 |
店員 |
77_37 |
すぐじゃなくてもいいんです。でも、その、恋愛と疎遠になられちゃうと。僕がアタックするチャンスがなくなるというか |
客 |
78_41 |
……私が店員さんを好きになるか、分かりませんよ? |
店員 |
79_38 |
それでもいいんです。だって僕、蜜柑、好きですから |
客 |
80_42 |
? |
店員 |
81_39 |
もうすでに、好きなものが一つ、同じですね |
客 |
82_43 |
……蜜柑だけじゃなくて、桃も梨も、葡萄だって好きですよ? |
店員 |
83_40 |
全部の果物より僕が好きだって言ってもらえるように頑張ります! だからもし、蜜柑のタルトと同じくらい僕のことを好きになってくれたら、その時は僕と付き合ってください! |
END |