蜜柑のタルト

 出演キャスト様
キャラ名 台詞数
43
店員 40


役名 番号 台詞
※『』はモノローグです
○町中
 とぼとぼと歩いている客
01_01 『不釣合いなのは分かってた。彼に合わせた服が私に似合わないことも、唇にひいたルージュが合わないことも。全部ぜんぶ分かってたけど――それでも、可愛いねって言ってくれる彼が好きだった』
 客が店に入る
店員 02_01 いらっしゃいませ
03_02
04_03 『ふらふら歩いていたからか、つい、このお店に来てしまった。今日は彼と一緒に来るはずだったけど……私の隣に、彼の姿はない』
店員 05_02 ……お一人様ですか?
06_04 ……はい
店員 07_03 お席にご案内します
 客は椅子に座る
08_05 『馬鹿だな。ここで待っても、終わった恋が戻ってくるはずないのに。無理やりな背伸びも、似合わない化粧も、もう必要ない。私は振られたんだから』
 店員が水を持ってくる
店員 09_04 本日のお勧めは桃のタルトです。季節限定です
10_06 そうですね、ここのタルト、美味しいですよね。えっと、Aランチで
11_07 『美味しいねって、また来ようねって――約束したのに』
店員 12_05 食後に紅茶かコーヒーが選べますが、アイスミルクティーでよろしかったでしょうか
13_08 そうです、けど
店員 14_06 あっ、すみません。よくご来店されていたので、覚えてしまって。……今日は、お連れ様は一緒じゃないんですね
15_09 おつれ、さま
16_10 『それは彼のことだ。もう彼と一緒にこの店に来ることはない。二度とない』
店員 17_07 あの……大丈夫ですか?
18_11 え? な、にが、ですか?
店員 19_08 ……涙が。僕、気に障るようなことを言ってしまいましたか?
20_12 わ、わ? あ、ははは。ごめんなさい、泣くなんて、どうしたんだろう。あはは、びっくりしますよね、すみません
店員 21_09 ……無理に笑わなくてもいいんですよ?
22_13 無理じゃないですよ。すぐとまりますから。ごめんなさい
店員 23_10 ……少々お待ちください
24_14 『うわ、やっちゃった。泣くつもりなんてなかったのに。店員さん、困ってたよね。なんでだろう、どうして振られたときじゃなくて、こんなところで泣くんだろう。あ、駄目だ、とめないといけないのに、涙とまらない』
店員 25_11 こちらをお使いください
26_15 これ、ハンカチ? ……店員さんの?
店員 27_12 私物ですが、今日はまだ使ってないので
28_16 悪いですよ。私、お化粧してるし。今日はもう、帰りますね
店員 29_13 使ってください。そんな顔で外に出たら、道行く人に驚かれますよ?
30_17 でも、私がここで泣いてたら、入ってきたお客さんがびっくりします
店員 31_14 それなら大丈夫です。先ほどクローズの看板を出しておきましたから
32_18 そんな、迷惑かけられません。帰りますから
店員 33_15 うちのタルト、美味しいって言ってくれましたよね
34_19 それは、そうですけど
店員 35_16 ――どうぞ、苺のタルトです
36_20 あの、頼んでませんよ?
店員 37_17 苺のタルト、お好きなんですよね? いつも注文してくださって
38_21 ……ごめんなさい、私、苺は好きじゃないんです
店員 39_18 そうだったんですか?
40_22 彼が、苺、好きだから。同じ味を好きになりたくて。服も、化粧も、喋り方も頑張ってたんですけど……振られちゃって
店員 41_19 ……
42_23 無理してるのが、ばれたから。呆れられたんです。に、似合わないのに、高いヒールはいたり、アイライン引いたり。でも
店員 43_20 その人のこと、好きだったんですね
44_24 好き、だった……! 同じものを、美味しいねって言って、食べたくて。でも苺、好きになれなくて。我慢してたから。だから
店員 45_21 じゃああなたは、どんな果物がお好きなんですか?
46_25 私、ですか? 私は……柑橘系の、蜜柑とか、グレープフルーツとか
店員 47_22 かしこまりました。少々お待ちください
48_26 『なに言ってるんだろう。店員さんにこんなこと言ったって仕方ないのに。ああもう、最悪だよ』
店員 49_23 お待たせいたしました。蜜柑のタルトです
50_27 えっと
店員 51_24 好きなタルトを食べてもらいたいので。どうぞ、美味しいですよ、蜜柑のタルトも僕の一押しです
52_28 でも
店員 53_25 どうぞ。一口だけでも
54_29 じゃあ。はく……うん、美味しいです。……美味しいなぁ
店員 55_26 それはよかった。ランチも食ませんか? ご飯を食べると、幸せになりますし、元気になれますよ?
56_30 ……お願いします
店員 57_27 かしこまりました
58_31 『なにしてるんだろう。失恋して、ご飯食べて。失恋太りとか、するのかな』
店員 59_28 お待たせしました、Aランチです
60_32 ありがとうございます。あの、もうお店開けてください。せっかくのお昼時なのに、閉めてたら売り上げとか
店員 61_29 今日はいいんですよ。今日はあなただけが、この店のお客さんです
62_33 そんな、店長さんに怒られますよ
店員 63_30 僕が店長なので、大丈夫です
64_34 そう、なんですか。あ、パスタ、美味しい。これアスパラだ。ベーコンも……ふう。当分、恋愛はいいかな
店員 65_31 え!? ええっと、確かに今回はその、望む結果になりませんでしたが、恋愛は素敵なものですよ!
66_35 ふふ、どうして店員さんがそんなに慌ててるんです
店員 67_32 いえ、その。あなたが恋愛は当分いいかなと言ったので
68_36 彼がいなくても、このお店には来ますよ。タルト美味しいですし
店員 69_33 それは、とても嬉しいのですが……その、ですね。僕、あなたが好きなんです
70_37 はい
店員 71_34 はいって、それはOKって意味ですか!?
72_38 え、ええ!? あ、いや、今のは弾みで応えちゃっただけで
店員 73_35 そう、ですよね。ごめんなさい。失恋したばかりの人にこんなこと言うのは、ずるいって分かってるんですけど
74_39 店員さんが、私のこと
店員 75_36 あなたが好きです。いつも、僕が作った料理やタルトを食べて、笑ってくれるのがいいなって思ってて
76_40 ごめんなさい、私
店員 77_37 すぐじゃなくてもいいんです。でも、その、恋愛と疎遠になられちゃうと。僕がアタックするチャンスがなくなるというか
78_41 ……私が店員さんを好きになるか、分かりませんよ?
店員 79_38 それでもいいんです。だって僕、蜜柑、好きですから
80_42
店員 81_39 もうすでに、好きなものが一つ、同じですね
82_43 ……蜜柑だけじゃなくて、桃も梨も、葡萄だって好きですよ?
店員 83_40 全部の果物より僕が好きだって言ってもらえるように頑張ります! だからもし、蜜柑のタルトと同じくらい僕のことを好きになってくれたら、その時は僕と付き合ってください!
END


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