役名 |
番号 |
台詞 |
●地下 |
目を覚ますとそこは地下で、睦は椅子に括りつけられ、変な機械を頭に付けられている |
首が回らないので誰がいるか判らない睦は、気絶するまで一緒にいたさつきを探す |
睦 |
001_001 |
さつき! さつき、聞こえる? どこかにいる? |
さつき |
002_001 |
う、うん? |
さつきは睦とは離れた場所で床に転がされ縛られている |
さつき |
003_002 |
睦さん? |
睦 |
004_002 |
怪我は? |
さつき |
005_003 |
ないけど。ここは? |
睦 |
006_003 |
知らないわ。あたし、首が回らないの、なにか見えない? |
さつき |
007_004 |
僕も縛られてるし、暗くて……あ、本間さんが! |
睦 |
008_004 |
本間さん? え? どこ? |
さつき |
009_005 |
僕の前で椅子に座って。本間さん! 本間さん!! |
話しかけるが靖幸は魂が抜けたように空ろな瞳でいるだけだ |
さつき |
010_006 |
駄目。なんか意識がここにないっぽい |
睦 |
011_005 |
どうなってるっての? |
扉が開き、巽が車椅子ごと入ってくる |
巽 |
012_001 |
ああ、もうお目覚めでしたか |
さつき |
013_007 |
お前! っぁ――ああ! |
睦 |
014_006 |
さつき、どうしたの! |
さつき |
015_008 |
そ、その、人は、僕の――姉さん |
睦 |
016_007 |
ちょっと見えないでしょ。あたしをのけ者にしないで! |
巽 |
017_002 |
申し訳ありませ。今そちらに参りますね、睦様。さ、星羅様、参りましょう |
さつき |
018_009 |
馬鹿言うな! その人は僕の姉さんだ! やっぱり、お前たちが犯人だったんだ! |
巽 |
019_003 |
このお方は本間星羅様。なんでしたら、ご自分でお確かめになられたらよろしいかと。星羅様、お目覚めください |
星羅が閉じていた瞼を開ける |
とても人が喋っているとは思えない無気力無感情な声が響く |
星羅 |
020_001 |
……タツミ? |
星羅の声に反応するように靖幸が目を覚まし、駆け寄る |
靖幸 |
021_001 |
姉さん。起きていたのですか! |
星羅 |
022_002 |
ええ。ヤスユキ。今日は気分がいいから。その人たちは、貴方のお友達? |
靖幸 |
023_002 |
はい。昨日雪山で遭難された方たちで。宿をお貸ししたんです |
星羅 |
024_003 |
まあ。貴方はいつも私の真似をしてしまいますね |
靖幸 |
025_003 |
私の憧れはいつでも、姉さんですから |
さつき |
026_010 |
違う! 姉さん! 僕だよ、さつきだ! ねぇ、冗談だよね。どうして車椅子に乗ってるの? どうしてこんなお芝居に付き合うの? |
星羅 |
027_004 |
? タツミ、あの少年はなにか勘違いをしているわ |
巽 |
028_004 |
はい。星羅様のことを、ご自分の姉だと思っているようですね |
星羅 |
029_005 |
ごめんなさい。私は貴方の姉ではないのよ? |
さつき |
030_011 |
そんな、嘘だよ! 嘘だ! 姉さんは草間なつき! 僕の姉さんだ!! |
星羅 |
031_006 |
クサマ ナツ……ナツ、ナツキィ? |
さつき |
032_012 |
姉さん! |
巽 |
033_005 |
おやめください、さつき様。脳に負荷がかかると壊れます。混乱させてはいけません。このお方は本間星羅様です。御方様、私が睦様とさつき様にご説明いたしますので。隣の部屋で、星羅様と一緒にいてくださいますか? |
靖幸 |
034_004 |
ああ、構わないよ。行こう、姉さん |
星羅 |
035_007 |
ええ、ヤスユキ |
本間兄弟は部屋を出て行く |
睦 |
036_008 |
説明、してくれるんですよね、巽さん |
巽 |
037_006 |
勿論でございます、睦様 |
睦 |
038_009 |
だったらついでに、この拘束をといてくれると嬉しいんだけど? |
巽 |
039_007 |
それはできかねます |
さつき |
040_013 |
さっさと答えろ! どうして僕の姉さんが本間さんの姉だっていうんだ!! |
巽 |
041_008 |
そうですね。どこからお話しましょうか。まず、もうお判りでしょうが、本物の星羅様は既にこの世におりません。あのお方は7人目の星羅様です |
さつき |
042_014 |
7人目!? |
巽 |
043_009 |
睦様にはお話しましたよね。星羅様と御方様は、それは仲のよいご姉弟であったと。それがある日、星羅様の死を境に狂ってしまったのです。御方様は星羅様の死を受け入れられず、死者を蘇らせる実験を繰り返されるばかり。しかし、死者を蘇らせるなど神の所業。できうるはずがありません。それでも御方様は諦めませんでした。そして、壊れてしまった |
睦 |
044_010 |
書庫にあった本は、両親じゃなくて星羅さんを蘇らせるためのものだったの? |
巽 |
045_010 |
ご両親の時も、御方様は蘇らせようとしておられました。ただあの時は幼かったのです |
さつき |
046_015 |
僕らにそれを聞かせて、貴方はどうするつもり |
巽 |
047_011 |
先ほどの星羅様を見られましたか? やせ細り、今にも命の火が消えそうなお姿を |
さつき |
048_016 |
病院に連れて行けばいい! そうすれば絶対に、僕の姉さんだって証明される。治療だって |
巽 |
049_012 |
どうしても病院に連れて行きたいと仰るのであれば、今しばらくお待ちください。星羅様の意識を睦様に移した後であれば、お好きになさって構いません |
睦 |
050_011 |
はぁ!? ちょっと待って、え? あたし? 冗談じゃないわよ!? |
巽 |
051_013 |
不服でしょうか? |
睦 |
052_012 |
不服に決まってるでしょ! |
巽 |
053_014 |
睦様が頷いてくだされば、円様は無事、町まで送り届けましょう。今の星羅様も、返してあげることができます。睦様さえ、ここに残ってくだされば |
睦 |
054_013 |
……断れば? |
巽 |
055_015 |
睦様の代わりに円様に儀式を施すことになるかと。さつき様は残念ながら、町にお返しすることはできません。ここで暮らすか、ここで死ぬか、好きな方をお選びください |
さつき |
056_017 |
どっちも断るに決まってる! |
巽 |
057_016 |
そうですか。私は一度地上に戻ります。次来た時は色よい返事をいただけることを願っております |
巽が部屋から出て行く |
さつき |
058_018 |
ねぇ、どうするつもり。まさか条件を呑むわけないよね |
睦 |
059_014 |
……冗談じゃないわ。どうして誰かの代わりをしなきゃいけないの。……円が来るから、それまでに妥協案を考えましょう |
さつき |
060_019 |
あのぼけーっとしてるのが助けに来てくれるの? |
睦 |
061_015 |
来てくれるわ |
●応接間 |
円 |
062_001 |
いなーい! むっちゃん、どこ行ったのー! |
達治 |
063_001 |
屋敷中、探したよな? 本気でいねぇぞ? |
靖幸が誰も乗っていない車椅子を押しながら応接間に入ってくる |
達治 |
064_002 |
あ、御方様! |
円 |
065_002 |
靖幸さん! あの、むっちゃんっがいなくなっちゃったんです! |
靖幸 |
066_005 |
睦さんが、ですか? |
達治 |
067_003 |
さつきもいねぇんです。色んなとこ探してて。あ、勿論3階には行ってないですから |
靖幸 |
068_006 |
ああ、3階は……もういいんだよ。姉さんは、もうすぐ元気になるから |
円 |
069_003 |
? 靖幸さん、その車椅子、どうしたんです? |
達治 |
070_004 |
そいつは星羅様の……どこかに出かけられてたんですか? |
靖幸 |
071_007 |
ああ。少し散歩がしたくなったからね。と、睦さんと、さつきくんのことだったね。私も探してみよう |
靖幸が出て行く |
達治 |
072_005 |
変だ。なんで3階に入っていいってなるんだ? 元気になるって、腕のいい医者が来るわけでもねぇだろうし |
円 |
073_004 |
それに靖幸さんって、体調が悪いから部屋にいるんじゃなかったんですか? 元気そうですけど |
達治 |
074_006 |
……結香ちゃんを探そう。あの子はなにか知ってる |
円 |
075_005 |
でもどこにいるか |
達治 |
076_007 |
たぶん、執事部屋だ。困ったことがあると、いつもそこに行くんだよ |
●執事部屋 |
達治 |
077_008 |
みーつけた! |
結香 |
078_001 |
ひぃ!! |
達治 |
079_009 |
おっと、逃げらんねぇぞ? 話がしてぇんだ、結香ちゃん |
結香 |
080_002 |
じ、自分には、話す、こと、ない |
円 |
081_006 |
あのね、むっちゃんと、さつきくんがいないの。なにか知らない? |
結香 |
082_003 |
知らない!! |
達治 |
083_010 |
その顔は絶対知ってるだろ。なんで知らないなんて嘘つくんだ |
結香 |
084_004 |
う、うう、嘘、じゃない |
達治 |
085_011 |
なぁ結香ちゃん。人がいなくなってんだ。知ってることがあったら教えてくれ |
結香 |
086_005 |
……自分は、御方様の味方、だから。駄目 |
達治 |
087_012 |
その言いぶりじゃ、御方様が二人を隠したって風に聞こえるぜ? |
結香 |
088_006 |
! 違う!! 御方様じゃない!! |
円 |
089_007 |
じゃあ、巽さん? |
結香 |
090_007 |
……もう町に帰って。これ以上は駄目。知っては駄目。知ればきっと、貴方達も帰れなくなる |
円 |
091_008 |
結香ちゃん。わたしは、むっちゃんと一緒じゃないと下山しないよ。むっちゃんがいないなら帰らない |
結香 |
092_008 |
(すがるように)帰らないの? ずっとここにいてくれるの? |
達治 |
093_013 |
ああ。ここにいる。俺たちは味方だ。御方様を責めたりしない。だからなにが起きてるのか、教えてほしいんだ |
結香 |
094_009 |
……儀式が、はじまるの。睦さんに星羅様の魂を移し変える儀式が |
円 |
095_009 |
な!? |
達治 |
096_014 |
(小声で)抑えろ。まだだ |
結香 |
097_010 |
いまの星羅様は、もうすぐ死んでしまう。だから、新しい体が必要なの |
達治 |
098_015 |
それが睦ちゃんだってのか。さつきは? |
結香 |
099_011 |
さつきさんの本当のお姉さんが、いまの星羅様。それを知ったらもう、さつきさんは町に返せない。ここに残らないのなら、きっと殺される |
達治 |
100_016 |
いままで、この館に来て帰らなかった人がいるってのは、ここに繋がるのか。でも待ってくれ、帰ってこないのは女だけじゃなく男もいたはずだ。まさか星羅様の魂を男に移し変えるなんてしないだろ? |
結香 |
101_012 |
しない。男は……男は、駄目なの。星羅様を殺した、男は、死なないと、だめ |
達治 |
102_017 |
殺された? |
結香 |
103_013 |
星羅様は、とても、優しかった。いつも遭難者を助けて。なのに、あいつらが、男たちが、星羅様を――だから、遭難する男は、殺さないと駄目。生きていては、いけないから |
円 |
104_010 |
結香ちゃんはそれを知ってて、わたしや、むっちゃんに黙ってたの? |
結香 |
105_014 |
……自分には、御方様が一番、だから。悪いことだって、知ってる、けど。御方様が笑ってくれるなら、誰にだって、どんな嘘だって、つく |
円 |
106_011 |
結香ちゃんは、御方様のこと、好きなんだ |
結香 |
107_015 |
孤児だった自分を、引き取って、育ててくれた。大切な人 |
円 |
108_012 |
そっか。でもね、わたしもむっちゃんが大事なんだ。たった一人しかいないの。わたしの友達。お願い、結香ちゃん。むっちゃんを返して |
結香 |
109_016 |
でも、御方様は |
円 |
110_013 |
むっちゃんは星羅さんじゃないよ? 洗脳、するのかは判らないけど。もう星羅さんはいない。そうでしょ? |
結香 |
111_017 |
違う、星羅様は、蘇るの。死んでも、死んでも、何度でも蘇って、御方様の傍に |
達治 |
112_018 |
そいつはもう星羅様じゃねぇよ。成り代わった奴を当人だって思い込ませるのは、相手に失礼だ。結香ちゃんは御方様を裏切ってる。偽りの相手を、自分の姉だって御方様に刷り込んでる。違うか? |
結香 |
113_018 |
だって、そうしないと、御方様が、壊れてしまうの |
達治 |
114_019 |
どんな悲しみも苦しみも、乗り越える強さを人は持ってると俺は思う。自分が辛いからって、誰かの幸せをとったり、誰かを泣かしたりするのは違うだろ |
結香 |
115_019 |
でも……でも!! |
達治 |
116_020 |
教えてくれ。睦ちゃんと、さつきはどこにいる |
円 |
117_014 |
お願い結香ちゃん! |
結香 |
118_020 |
……地下の、部屋に |
達治 |
119_021 |
地下!? んなのあるのか? |
結香 |
120_021 |
温室から行けるの。奥に扉があるから |
円 |
121_015 |
達治さん、行きましょう! |
達治 |
122_022 |
おう。ありがとな、結香ちゃん |
|
二人は去る |
巽が現れる |
巽 |
123_017 |
温室に案内したんですか、結香さん |
結香 |
124_022 |
……二人は、ここに残るって言った。だから、自分、悪くない |
巽 |
125_018 |
そうですね。残ってくれれば誰も傷つかず済むんですけどね |
結香 |
126_023 |
御方様は? |
巽 |
127_019 |
星羅様の元へいかれました。傍にいてあげてください |
結香 |
128_024 |
うん |
巽 |
129_020 |
ここまで、でしょうかね |
巽は静かに去る |