| 役名 |
番号 |
台詞 |
| ●応接間 |
| 応接間に入ると暖炉があるため暖かい |
| 円 |
001_001 |
ここ、応接間だったんだね。広いなあー。あ、見て見てシャンデリア！ |
| 睦 |
002_001 |
さっきも来たんだから、はしゃがない。ん？ あれは―― |
| 扉の隙間から結香と達治がホールで会話しているのが見える |
| 睦はそれを観察 |
| 達治 |
003_001 |
だーかーらーな？ 今日の夕飯はお客さんがいっぱいだから、結香ちゃんにも手伝ってほしいんだって |
| 結香 |
004_001 |
お、大勢の、前で、配膳しろとか……自分に、死ねと言うんですか、達治（たつじ）さん |
| 達治 |
005_002 |
それくらいじゃ死なないから！ 大丈夫！！ ね、お願い、このとーり！ それに、お客さんたちをもてなすのは俺たちの仕事だろ？ |
| 結香 |
006_002 |
それは、そう、ですが |
| 達治 |
007_003 |
だったら結香ちゃんはメイドさんとして、きちんとお仕事しないと |
| 結香 |
008_003 |
なぜ、なぜ自分はメイドなのか……ああ、温室でリコリスとして、土に、埋まっていたい |
| 達治 |
009_004 |
リコリスになったら御方様にひっこ抜かれっからな！？ |
| 結香 |
010_004 |
それもまた一興。ふふ、ふふふふ |
| 達治 |
011_005 |
ったくもー |
| 二人を見る睦に気づき円が寄ってくる |
| 円 |
012_002 |
なに見てるの、むっちゃん |
| 睦 |
013_002 |
別に、なんでも |
| 円 |
014_003 |
ん〜？ あの男の人は見たことないけど、コックさんの服着てるから、料理する人だよね |
| 睦 |
015_003 |
だと思うけど |
| 円 |
016_004 |
むっちゃん冷たいー |
| 睦 |
017_004 |
通常運転。それで、円の探索は終わったの？ |
| 円 |
018_005 |
ふふん、聞いて驚け！ なんと、こーんなものを見つけちゃいました！ |
| 円は古い鍵つきの日記を睦に見せる |
| 睦 |
019_005 |
随分古い日記ね。鍵つきだけど、鍵は？ |
| 円 |
020_006 |
なかった |
| 睦 |
021_006 |
じゃあ諦めるのね |
| 円 |
022_007 |
諦めないよ！ こんな心躍るものを見つけたんだから、どこかに鍵がないか、探そうよ〜 |
| 睦 |
023_007 |
見ちゃ駄目だから鍵けてるんでしょ |
| 円 |
024_008 |
でもさ、凄く古いしさ、もう時効だって〜 |
| 睦 |
025_008 |
……怒られても知らないから |
| 円 |
026_009 |
その時はその時！ あ！ |
| 応接室に、さつきが入ってくる |
| 睦 |
027_009 |
こんにちは、あなたも遭難者？ |
| さつき |
028_001 |
こんにちは、あなたもってことは、お姉さんたちも？ |
| 円 |
029_010 |
そうなんだ。吹雪でホテルに帰れなくなちゃってさ |
| さつき |
030_002 |
僕も、同じ。……でも、よくここに来る気になったね |
| 睦 |
031_010 |
どういう意味？ |
| さつき |
032_003 |
ここが鳴月館だって、知らないの？ |
| 円 |
033_011 |
門のところに書いてたから知ってるよ？ |
| さつき |
034_004 |
そっか、観光客なんだ。知らなくて当然か |
| 円 |
035_012 |
えっと？ |
| さつき |
036_005 |
うん。ごめんね。僕の名前は草間（くさま） さつき。お姉さんたちは？ |
| 円 |
037_013 |
藤上 円 |
| 睦 |
038_011 |
沢嶋 睦 |
| さつき |
039_006 |
そう、円さんと睦さん。……悪いことは言わない。ここから逃げた方がいいよ |
| 睦 |
040_012 |
どういうこと？ |
| さつき |
041_007 |
詳しくは語れない。お姉さんたちが信用できるか僕にはまだ判らないし。でも、これは親切心だよ。早くここを出て行く方がいい |
| 円 |
042_014 |
出て行けって、この吹雪の中を？ |
| さつき |
043_008 |
……まあ、そっか。そうだよね |
| 睦 |
044_013 |
……あなた、遭難してここに来たんじゃないの？ |
| さつき |
045_009 |
勿論、遭難したよ。吹雪いてきたら、ちょうどいいと思って |
| 円 |
046_015 |
わざと遭難した？ |
| さつき |
047_010 |
さぁ、どうだろうね |
| さつきは応接間を出て行く |
| 円 |
048_016 |
なんだったのかな、出てけって言われても。出て行ったら死ぬよね？ |
| 睦 |
049_014 |
そうね |
| 円 |
050_017 |
それよりさ、この本の鍵、探そうよ！ |
| 睦 |
051_015 |
はぁ……どうあっても開けたいのね |
| 円 |
052_018 |
開けたいね！ 閉じてるものがあると、開けたくなるのは、この世の心理！ |
| 睦 |
053_016 |
はいはい。見せて……小さい鍵ね、錆びてるし。かなり古い |
| 円 |
054_019 |
でしょ！ お宝っぽいよね |
| 睦 |
055_017 |
どこで見つけたの？ |
| 円 |
056_020 |
戸棚の中にあったよ。戸棚の中探したけど、鍵はないみたいで |
| 睦 |
057_018 |
無理やり壊すのはよくないわよね、人のだし。鍵がないなら小さい工具とかは？ |
| 円 |
058_021 |
あー、うーん（戸棚を探す）ないなぁ。巽さんなら持ってるかも！ |
| 睦 |
059_019 |
そうね |
| ＳＥ 19時の鐘が鳴る |
| 円 |
060_022 |
あっちゃー、むっちゃん、ご飯の時間だよ！ |
| 睦 |
061_020 |
行きましょうか |
| 円 |
062_023 |
らじゃー！ |
| ●食堂 |
| 食堂の扉を開けると、既に全員揃っていた |
| 靖幸が椅子から立ち上がりかけている |
| 靖幸 |
063_001 |
ああよかった、いまお嬢さんたちを呼びに行こうと思っていたところです |
| 睦 |
064_021 |
すみません遅れて。円が外に行きたいと言い出したので |
| 円 |
065_024 |
うぇええ！？ |
| 靖幸 |
066_002 |
円さん、おやめなさい。遭難してしまいますよ。さ、それよりも温かいスープをどうぞ |
| 睦と円は椅子に座る |
| 靖幸 |
067_003 |
さつきくんとは、お会いになりましたか？ |
| さつき |
068_011 |
はい、先ほど。ね、円さん |
| 円 |
069_025 |
（どう答えていいか判らず苦笑い）は、はぃ〜 |
| さつき |
070_012 |
こんな雪に見舞われるなんて、ついてない。でも、遭難したお陰で鳴月館に来ることができたことは、幸運でした |
| 靖幸 |
071_004 |
おや、この館をご存知なのですか？ |
| さつき |
072_013 |
はい。町では噂になっています。行った人が帰ってこない館だと |
| 靖幸 |
073_005 |
そうなのですか？ |
| 睦 |
074_022 |
誰も帰ってないなら。この館に来た、っていう情報はどこから出てくるの？ |
| さつき |
075_014 |
誰が"全員が帰ってこない"って言ったかな？ この館から帰ってこないのは女性が多いらしいんです |
| 円 |
076_026 |
（ちょっと怖がる）女性が多いって |
| 靖幸 |
077_006 |
さつきくん、お嬢さん方を怖がらせるのはよしてください。確かに、館から帰る道すがら、不慮の事故に巻き込まれた女性の方はいます。雪山は危険ですからね。私の姉も、崖から落ちて今では寝たきりですし |
| 円 |
078_027 |
大丈夫なんですよね？ |
| 靖幸 |
079_007 |
ありがとうございます。一命は取り留めましたが、未だ体を自由に動かすことはできず、皆さんに挨拶することもできないのです |
| さつき |
080_015 |
あくまでも、この館には怪しいところはないと言い切るんですね |
| 靖幸 |
081_008 |
怪しまれるのでしたら、どうぞ館内をお調べください。ああただ、三階の私の部屋は私が同席している時。また、姉の部屋はなにがあっても立ち入る許可は出せません。それ以外であればどちらでも |
| さつき |
082_016 |
判りました |
| 靖幸 |
083_009 |
さ、遅くなってしまいましたが食事にしましょう。達治くんが腕によりをかけて作りましたので |
| 達治が入ってきて礼をする |
| 達治 |
084_006 |
鳴月館でコックをしています、内屋（うちや）達治です。料理の紹介は――ま、省きましょうか。冷めてしまいますので、温かい内にどうぞ |
| 靖幸 |
085_010 |
（咎めるように）達治くん |
| 達治 |
086_007 |
御方様たちがいっぱい喋るからいけないんですよ。折角、俺が丹精こめて作った料理だってのに、冷めちゃ台無しだ |
| 靖幸 |
087_011 |
ははは、そうだね。では頂こうか |
| みな思い思いにご飯を食べる |
| 円 |
088_028 |
ん〜、美味しい！ サラダもだけど、このパン。凄く美味しい！ |
| 達治 |
089_008 |
おっと、目のつけどころが違うね。そいつはライ麦で作って窯で焼いたやつだ。今日はメインがあるから違うが、やる気さえ出せばピザも焼けるぞ |
| 円 |
090_029 |
うわぁあ！ 食べてみたいです！！ |
| 達治 |
091_009 |
あははは、でも朝食じゃ重たすぎるだろ。嬢ちゃんたちは明日の昼には帰っちまうだろうし |
| 円 |
092_030 |
そっかぁ。残念 |
| 達治 |
093_010 |
気に入ってくれてありがとな。よかったら、ここ出る前に余ったパン持ってくか？ |
| 円 |
094_031 |
いく！！ |
| 結香 |
095_005 |
どどど、どう、ぞ。メインの、お、にゅくです |
| 巽 |
096_001 |
結香さん、お肉ですよ |
| 結香 |
097_006 |
なぜ、なぜ、自分が、こ、こんな、人の多い、ところに……この世は地獄 |
| 巽 |
098_002 |
口ではなく腕を動かしてくださいね。睦様、お飲み物のおかわりは如何ですか？ |
| 睦 |
099_023 |
ありがとう、もらえる？ |
| 巽 |
100_003 |
畏まりました |
| さつき |
101_017 |
ね、この豆あげる。僕これきらい |
| 円 |
102_032 |
え？ 美味しいのに、でもいらないならもらうー |
| 睦 |
103_024 |
円、はしたない |
| 靖幸 |
104_012 |
いいんですよ。こんなにも賑やかな食卓は久しぶりです |
| さつき |
105_018 |
いつもは静かなの？ |
| 靖幸 |
106_013 |
ええ、姉が部屋に篭ってからはずっと……ああ、すみません。折角の場に水を差すなど。――私はこれで失礼しましょう。皆さんは好きなだけ食べてくださいね |
| 達治 |
107_011 |
御方様、また雀の涙ほどしか食べてねぇぜ |
| 靖幸 |
108_014 |
すまない。どれも本当に美味しいんだが、どうにも胃が小さくなってしまってね |
| 達治 |
109_012 |
調子悪いなら、粥でも作りましょうか？ |
| 靖幸 |
110_015 |
気にしなくて構わないよ |
| 巽 |
111_004 |
御方様、後ほどお薬をお持ちいたします |
| 靖幸 |
112_016 |
心配性だなぁ。けれど、ありがとう |
| 靖幸は去っていく |
| 睦 |
113_025 |
円、それ美味しい？ |
| 円 |
114_033 |
うん、すっごく美味しいよ。はい、あーん！ |
| 睦 |
115_026 |
あーん |
| 達治 |
116_013 |
そう言ってもらえるのは嬉しいねぇ |
| さつき |
117_019 |
よくそんなに食べれるね。なにか入ってるかも、とか思わないの？ |
| 円 |
118_034 |
え！？ なにか入ってるの、これ |
| さつき |
119_020 |
睦さんの連れ、馬鹿なの？ |
| 睦 |
120_027 |
否定はしないわ |
| 巽 |
121_005 |
達治くんの料理に怪しい物など入ってはいませんよ。なんでしたら彼に食べさせてみたらいいでしょう |
| 達治 |
122_014 |
そこは執事長じゃないのかよ！？ |
| 巽 |
123_006 |
自分の責任はご自分で。己の身の潔白は己で証明してください |
| 達治 |
124_015 |
厳しぃー |
| さつきが箸を机に置く |
| さつき |
125_021 |
で、本当のところはどうなの？ |
| 巽 |
126_007 |
本当のところ、と申されますと？ |
| さつき |
127_022 |
この館に入った人が帰ってこないっていう噂だよ |
| 達治 |
128_016 |
疑り深いなぁ。俺がここに来てから日はまだ浅いが、そんなのは見たことねぇぜ？ 結香ちゃんは？ |
| 結香 |
129_007 |
じ、自分は、知らない、です。たまにここに来る人は、みなさん、お帰りになっているよう、ですし。そ、それに、御方様を悪く、言うのは、やめてほしいです |
| さつき |
130_023 |
へぇ、なんで？ |
| 結香 |
131_008 |
ににに、睨むのは、反則です！！ |
| |
| 結香は巽の後ろに隠れてしまう |
| さつき |
132_024 |
睨んでないんだけど |
| 巽 |
133_008 |
申し訳ありません、さつき様。結香さんは真正面から相手を見ることができないのです |
| 達治 |
134_017 |
そういやそうだな。俺とも知らねぇ仲じゃねぇってのに、つれないねぇ |
| 結香 |
135_009 |
べべ、べつ、に。達治さんが嫌い、な、わけじゃない、です |
| 達治 |
136_018 |
もーちょっとくらい仲良くなってもいいと思うんだが |
| 巽 |
137_009 |
達治くん、おやめなさい。結香さんに泣かれますよ |
| 達治 |
138_019 |
そんな馬鹿な！ |
| 睦 |
139_028 |
あたしの見間違えじゃないなら、既に巽さんの背中にしがみついて泣いてますけど |
| 達治 |
140_020 |
うそ！？ ああ、悪かった。俺が悪かったよ、結香ちゃん！ な、飴いるか？ 飴！ |
| 結香は達治が差し出す飴だけを掠め取って逃げていく |
| 結香 |
141_010 |
ふん！ |
| 達治 |
142_021 |
は、はぇえ |
| 円 |
143_035 |
見事に飴だけ奪われましたね |
| さつき |
144_025 |
嫌われてるんじゃない、お兄さん |
| 達治 |
145_022 |
そ、そんなことは！！ |
| 巽 |
146_010 |
仕方ありません。追いかけてきます。達治くん、お客様に失礼のないよう、お願いしますね |
| 達治 |
147_023 |
心がけてますよ、いつでも！ |
| 巽 |
148_011 |
（楽しそうに）そうですか。では、私も失礼致します |
| 巽は部屋を去る |
| 円 |
149_036 |
っは〜、食べた食べた。お腹いっぱい！ |
| 達治 |
150_024 |
お？ デザート用意してたんだが、もう入らねぇか？ |
| 円 |
151_037 |
なに言うんです、デザートは別腹です |
| 達治 |
152_025 |
おう！ んじゃ、ちょっと待っててくれな |
| 達治が去る |
| 睦 |
153_029 |
（さつきに向かって）いきなりすぎるんじゃない |
| さつき |
154_026 |
なにが |
| 睦 |
155_030 |
探りを入れるにしても、もう少し利口なやり方はなかったの？ あなたの言葉を信じるわけじゃないけど、万が一にでも本当なら、危険になるわよ |
| さつき |
156_027 |
僕はここから帰るつもりがないから、いいんだよ |
| 睦 |
157_031 |
だったら、あたしたちが帰ったあとにしてくれる？ 巻き込まれるのはごめんよ |
| さつき |
158_028 |
お姉さんたちがいるなんて思わなかったんだから、仕方ないじゃない。ここで会ったのもなにかの縁、観念して巻き込まれてよ |
| 睦 |
159_032 |
冗談じゃないわ |
| 円 |
160_038 |
もー、どうしてそんなにギスギスするかなぁ。デザートの前に、そんな会話、聞きたくありませーん！ |
| 睦 |
161_033 |
……そうね |
| 達治 |
162_026 |
だぜ？ |
| ひょっこり達治がデザートを持って現れる |
| さつき |
163_029 |
わっ！？ コック |
| 達治 |
164_027 |
内屋 達治な。うっちゃんって呼んでくれてもいいぜ。ほれ、デザート、持ってきたぞ |
| 円 |
165_039 |
いぇーい！ 待ってました！ |
| さつき |
166_030 |
内屋さん。どこから聞いて |
| 達治 |
167_028 |
んー？ 別にな、疑（うたぐ）るのは悪くないと思うぞ？ うん。実際そういう噂があるのもホントだし |
| 睦 |
168_034 |
けどさっきは、いなくなった人はいないって |
| 達治 |
169_029 |
俺が来てからはな |
| さつき |
170_031 |
あなたも疑ってるってこと？ |
| 達治 |
171_030 |
まぁ、そうだなぁ。疑ってた、最初は。でも、館の連中に変な奴はいねぇし |
| 睦 |
172_035 |
結香ちゃんはある意味変な人だと思うけど？ |
| 達治 |
173_031 |
はは、違いねぇ！ けど結香ちゃんが客人に対して、どうこうできると思うのか？ |
| 睦 |
174_036 |
自分からじゃ、近づきそうにないわね |
| 達治 |
175_032 |
だろう？ 御方様もさ、この頃全然飯くわねぇし。死んじまうんじゃないかって内心ハラハラよ。だから、あんま引っ掻き回してくれんな。明日、雪が止んだら大人しく下山してくれ |
| さつき |
176_032 |
……僕は出て行かないから |
| 達治 |
177_033 |
あのなぁ |
| さつき |
178_033 |
だって！ 僕の姉さんはこの館に行って帰ってこなかったんだから！ |