役名 |
番号 |
台詞 |
シーン5 |
※『』はモノローグです |
○廊下 |
家人 |
001_001 |
つむぎさん |
氷室 |
002_001 |
はい! お仕事終わってます! |
家人 |
003_002 |
……仕事ができたのは判りました。ただ |
氷室 |
004_002 |
なにかしますか? |
家人 |
005_003 |
埃を立てずに歩きなさい! |
氷室 |
006_003 |
あ、はい |
家人 |
007_004 |
仕事に慣れてきたようですね。よいことですが、もう少し落ち着きを持ってもらわなければ。あなたも政宗さまにお仕えする身なのですから |
氷室 |
008_004 |
はい! |
家人 |
009_005 |
声が大きいです。もっとお淑やかに |
氷室 |
010_005 |
えっと、はぁい |
家人 |
011_006 |
覇気が足りません! |
氷室 |
012_006 |
えええ |
廊下を歩いている |
氷室 |
013_007 |
庭の掃除終わり、食器も洗ったし、馬の世話、あ、藁を足してあげたほうがいいかな……政宗さまに手紙のこと聞くタイミング、どうしよう。うーん、行ってみようか |
○政宗の部屋の前 |
氷室 |
014_008 |
すー、はー、すー、はー!! だめだ、まだ心の準備が |
伊達 |
015_001 |
部屋の前にいるのは誰だ? |
氷室 |
016_009 |
ま、政宗さま!? ――あ、どうしよう…… |
伊達 |
017_002 |
誰だ? |
氷室 |
018_010 |
つむぎです! |
伊達 |
019_003 |
つむぎか、どうした |
氷室 |
020_011 |
えっと、その、お願いがあって。いまお時間、大丈夫ですか? |
伊達 |
021_004 |
ああ、構わない。入ってきてくれ |
氷室 |
022_012 |
失礼します |
襖を開けて部屋に入る |
伊達 |
023_005 |
どうした、なにか用か? |
氷室 |
024_013 |
あの、このまえ、お手紙をくれましたよね |
伊達 |
025_006 |
……気分を害したか? すまない、破り捨てて構わな―― |
氷室 |
026_014 |
違うんです! 気分を害するとかそんなの、絶対ないです! |
伊達 |
027_007 |
そうか。ではどうした? |
氷室 |
028_015 |
その、お恥ずかしながらわたし、文字が読めなくて。なにが書いてるか分からなくて |
伊達 |
029_008 |
文字が、そうか、読めないのか |
氷室 |
030_016 |
せっかく書いてもらったのに、読めないから、片倉さんに読んでもらおうと思ったんですけど断られて |
伊達 |
031_009 |
それで、書き手の私のところに来たということか |
氷室 |
032_017 |
空いたときでいいんです。なにを書いたのか、教えてもらえないかなって |
伊達 |
033_010 |
ならば手すきのときにでも文字書きの練習をするか |
氷室 |
034_018 |
ええ!? あ、や、手紙が読めるだけでいいんです。文字書きの練習なんて、時間がかかるし |
伊達 |
035_011 |
いつ元の場所に帰れるか分からないのだから、こちらの文字を覚えていても損ではないだろう。役に立つぞ |
氷室 |
036_019 |
……役に、立つ? |
伊達 |
037_012 |
ああ、文字を知っていれば役に立つだろう |
氷室 |
038_020 |
わたしが文字を覚えたら、政宗さまのお役に立てますか? |
伊達 |
039_013 |
私の? いや、自分の役に立てるといい |
氷室 |
040_021 |
わたし、政宗さまのお役に立つことを覚えたいです! |
伊達 |
041_014 |
どうしたというんだ、つむぎ |
氷室 |
042_022 |
やっぱり、役に立てないのにお城においてもらうの、駄目だなって思って |
伊達 |
043_015 |
……幸村か |
氷室 |
044_023 |
あ、えっと |
伊達 |
045_016 |
おまえは私の役に立たないとでも言われたか |
氷室 |
046_024 |
本当のことですから |
伊達 |
047_017 |
心外だな。私はつむぎが役に立つから傍においていると、そう思われていたのか |
氷室 |
048_025 |
そんなことないです! そんなこと――でもわたし、なにもできないのに、迷惑かけるし |
伊達 |
049_018 |
おまえは城の仕事を手伝ってくれているが? |
氷室 |
050_026 |
でもほんのちょっとじゃないですか。誰にでもできることですし |
伊達 |
051_019 |
誰にでもできる? ははは、それは違うな |
氷室 |
052_027 |
お城の掃除は誰でもできます! |
伊達 |
053_020 |
なら、私とこうやって話すことも誰にでもできると? 言ってはなんだが、家人はみな私と話すと恐縮するぞ? つむぎくらいだ、そんなにいろいろと言ってくるのは |
氷室 |
054_028 |
そ、そうなんですか!? |
伊達 |
055_021 |
知らなかったのか? |
氷室 |
056_029 |
だ、だって、わたしが頼れるのは片倉さんと政宗さまくらいで |
伊達 |
057_022 |
そうだな、私がおまえをここに閉じ込めているな |
氷室 |
058_030 |
そんなことないです! ここを出て行けって言われたらどうしようって、いつも思ってて |
伊達 |
059_023 |
つむぎ、一つ約束をしよう、私がおまえに出て行けと言うことはない。心配なら書面でも書こうか? |
氷室 |
060_031 |
……なんで、そんなによくしてくれるんですか? |
伊達 |
061_024 |
さてな、分からん |
氷室 |
062_032 |
分からないって、そんな |
伊達 |
063_025 |
私は自分がしたいようにしているだけだ。それがおまえの意に沿わないこともあるだろう。だからつむぎも好きにやってみればいい。誰も止めない |
氷室 |
064_033 |
好きにって、わたしがこのお城を乗っ取ったらどうするんです! |
伊達 |
065_026 |
はははは、乗っ取るということは、この政宗の首を取るということだぞ? |
氷室 |
066_034 |
だって、こんなに近くにいても政宗さま怒らないし。私が刃物とか持ってたら襲うことだってできます! |
伊達 |
067_027 |
できないな。おまえに人は殺せないし、私はそこまで弱くない。仮におまえがここで私を殺そうとしても、返り討ちにあって死ぬだけだ |
氷室 |
068_035 |
そんなの分からないじゃないですか! |
伊達 |
069_028 |
つむぎ、落ち着け |
氷室 |
070_036 |
落ち着いてます! |
伊達 |
071_029 |
なにを焦っているんだ |
氷室 |
072_037 |
だって! ……だって、怖いんです |
伊達 |
073_030 |
……なにが怖い |
氷室 |
074_038 |
出て行けって言われたら、行く場所なんてないから。帰る場所、ないから。なのに、助けに来てくれたとき、人を斬った政宗さまが怖くて。置いてもらってるのに、そんなこと思う自分が嫌で |
伊達 |
075_031 |
血が怖いのか。そうか、戦のない場所から来たんだったな |
氷室 |
076_039 |
克服してみせます。お仕事だっていっぱいできるようになります! ぜったい役に立ちます、だから |
伊達 |
077_032 |
つむぎ、聞け! |
氷室 |
078_040 |
っぅー |
伊達 |
079_033 |
私がおまえに出て行けと言うことはない――と口でいくら言っても信じられないだろうな。書面を書いても同じか。なるほど、だから役に立って、ここに置いてもらえる理由がほしいのか |
氷室 |
080_041 |
ごめんなさい |
伊達 |
081_034 |
謝ってほしいわけじゃない |
氷室 |
082_042 |
でもわたし、わがままなこと言ってますよね |
伊達 |
083_035 |
……そんなものは、わがままの内に入りはしないな。そうだな、ではつむぎにしかできないことを頼もうか |
氷室 |
084_043 |
え? ……あるんですか! やります、やらせてください! |
伊達 |
085_036 |
私と話すこと、私の愚痴を聞くこと、私に構うこと、私と一緒に小十郎を騙して時々外に出ること、あとは―― |
氷室 |
086_044 |
ちょ、ちょっと待ってください! え、そ、それをわたしがするんですか? |
伊達 |
087_037 |
ああ、つむぎとなら退屈しなさそうだしな |
氷室 |
088_045 |
…… |
伊達 |
089_038 |
いまからできることを増やせばいい。急ぐ必要はない。おまえが不安に思うなら、それを口に出して私に伝えてくれ。私は私なりに考えて、その不安に応えよう |
氷室 |
090_046 |
そんなの |
伊達 |
091_039 |
そのかわりに私の愚痴を聞いて、小十郎の小言を一緒に聞いて、ときに小十郎に怒られて、小十郎から逃げる手伝いや、小十郎の目をの盗んで酒に付き合って |
氷室 |
092_047 |
どれだけ片倉さんから逃げたいんですか、政宗さま |
伊達 |
093_040 |
めいいっぱい逃げたいな! 限界まで |
氷室 |
094_048 |
逃げたら、あとで怒られるんですよ? すっごく怖いんですよ? |
伊達 |
095_041 |
ははは、確かに小十郎は怖いな。鉈を振り回して追いかけてくるから気をつけろよ |
氷室 |
096_049 |
追いかけられたことあるんですか!? |
伊達 |
097_042 |
ある!! いやぁ怖かった。しかしああ見えて実は笛の名手なんだぞ。今度、聞かせてもらえ |
氷室 |
098_050 |
え、本当ですか!? じゃ、じゃあ |
ふすまが開く |
片倉 |
099_001 |
お断り申し上げます! |
氷室 |
100_051 |
びゃ!? |
伊達 |
101_043 |
こら小十郎、せめて声をかけてから襖を開け。仮にも主の部屋だぞ |
片倉 |
102_002 |
自分が傍にいることなどご存知でしたでしょうに。つむぎ、自分は笛など吹かぬからな |
氷室 |
103_052 |
そ、そんな! 政宗さまがお勧めしてくださったんです。絶対綺麗なんですよね、聞かせてください片倉さん |
片倉 |
104_003 |
こ・と・わ・る! なぜ自分が貴様に笛を聞かせなくてはいけない。己で吹け |
氷室 |
105_053 |
リコーダーだってまともに吹けないのに縦笛なんて、絶対無理ですよ! |
片倉 |
106_004 |
りこーだー、がなにかは知らんが、気合で吹け! |
氷室 |
107_054 |
そんな無茶な |
伊達 |
108_044 |
私も聞きたいな、小十郎 |
片倉 |
109_005 |
……政宗さま……よいですか、小十郎は芸に秀でてるわけではないのです |
伊達 |
110_045 |
今日は月が綺麗だろう、どれ、月見酒でもするか |
氷室 |
111_055 |
お酒ですか! |
伊達 |
112_046 |
ん、旨い肴を用意してやろう。そして美しい月には笛の音がいるとは思わないか? |
片倉 |
113_006 |
……月を愛でるだけでも有意義な時間となりましょう |
伊達 |
114_047 |
そうか、残念だな。小十郎が笛を奏でてくれれば、久々に舞をしてみたかったのだが |
氷室 |
115_056 |
舞って、政宗さまがですか!? |
伊達 |
116_048 |
評判は悪くないぞ。どうだ小十郎、政宗のために一つ、奏でる気はないか? |
片倉 |
117_007 |
主人を無音で舞いに出すなど、この小十郎、いたしませぬ |
伊達 |
118_049 |
そう言ってくれると思ったさ |
氷室 |
119_057 |
じゃ、じゃあ! |
片倉 |
120_008 |
ですが! 政宗さまはあまり呑まれませぬように、明日も公務が溜まっておりますゆえ |
伊達 |
121_050 |
ケチだな、小十郎は。縮むぞ |
片倉 |
122_009 |
ですから、縮みませぬ!! |
○豊臣の城の廊下 |
廊下を歩いている真田の前に、城の主である秀吉が血をまとって現れる |
真田 |
123_001 |
あら太閤さま、ご機嫌麗しゅう |
豊臣 |
124_001 |
幸村か、ああ、余の気分か? ははは、気分はいいなぁ。この太閤に楯突く塵屑がぎょうさんじゃ |
真田 |
125_002 |
素敵な衣に見慣れぬ血痕。どちらかに行かれていましたの? |
豊臣 |
126_002 |
余の世継ぎ、鶴松の調子がよくないからのぉ。嘆願をしに市井の屑を屠っておったのじゃ |
佐助 |
127_001 |
市井の民相手に嘆願ですか? |
豊臣 |
128_003 |
ははははは |
佐助 |
129_002 |
も、申し訳ありませぬ。ご気分を害されましたか! |
豊臣 |
130_004 |
ははははは、市井の屑をいくらか嬲り殺せば、その分の命が鶴松に行くだろう? |
真田 |
131_003 |
その通りですわ。さすがは太閤秀吉さま |
豊臣 |
132_005 |
この頃は徳川が不穏な動きを見せている。警戒をしておけ、幸村 |
真田 |
133_004 |
御意に |
豊臣 |
134_006 |
そうそう、しばらく前に面白いモノを拾ったのだ。暇があれば見に来るといい |
真田 |
135_005 |
まぁ、なんでございますか? |
豊臣 |
136_007 |
見てからの楽しみじゃ |
豊臣が去る |
佐助 |
137_003 |
幸村さま、太閤さまのお子であった鶴松さまはもう |
真田 |
138_006 |
亡くなられたこともお忘れになられたご様子ね。乱心されているお姿も多く見られると |
佐助 |
139_004 |
情勢が動くのでしょうか |
真田 |
140_007 |
太閤さまの体調もよくないご様子。この期にじょうじてくる輩は、いるでしょうね |
佐助 |
141_005 |
伊達さまはどうしましょう |
真田 |
142_008 |
政宗にはもちろん、関わっていただきますわ |