役名 |
番号 |
台詞 |
シーン4 |
※『』はモノローグです |
○真田の隠れ屋敷 |
真田 |
001_001 |
あら、お目覚めかしら |
氷室 |
002_001 |
『目が覚めたわたしの前にいたのは真田幸村さん。おかしい。昨日は自室で寝たはずなのに』 |
真田 |
003_002 |
なぜここに? という顔をなさっていますわね。ちょっとさらってきましたの |
氷室 |
004_002 |
大胆に誘拐宣言ですか!? |
真田 |
005_003 |
だぁって、そうでもしないと政宗があなたとお話させてくれそうにありませんもの |
氷室 |
006_003 |
えっと、それで、ここはどこでしょうか |
真田 |
007_004 |
ここは真田の隠れ屋敷ですわ |
氷室 |
008_004 |
わたしとお話したいって、なにについてでしょう |
真田 |
009_005 |
あら、見た目によらず、せっかちですのね。いいですわ、わたくしも無駄な会話をするつもりはありませんから。佐助にあなたのことを調査させましたの |
氷室 |
010_005 |
わたしのことを? |
真田 |
011_006 |
結果はなにも分からずじまい! 仕方がないので本人に直接お尋ねしようかと思いまして |
猿飛 |
012_001 |
心配しないでください。伊達さまへはご連絡しております |
氷室 |
013_006 |
え!? 政宗さま、いいよって言ったんですか!? |
猿飛 |
014_002 |
いいえ、激怒しておられました |
真田 |
015_007 |
こんな小狸を取られて怒るだなんて、政宗も趣味が悪いですわ |
猿飛 |
016_003 |
まったくです |
氷室 |
017_007 |
あの、わたしは小狸じゃなくて、氷室―― |
真田 |
018_008 |
お黙りなさい。あなたの名など小狸で十分です。さぁ、吐いてもらいましょうか |
氷室 |
019_008 |
な、なにをでしょうか |
真田 |
020_009 |
あなたはなにが目的でなぜ政宗に近づきましたの? 政宗の傍にいて、なにをするおつもりかしら |
氷室 |
021_009 |
崖から落ちて帰る場所がないので、お屋敷で働かせてもらってるだけで |
真田 |
022_010 |
見ず知らずのあなたを政宗が保護する理由はなんです? 政宗になんの利があるというのです |
氷室 |
023_010 |
助ける利点……は、ないですけど |
真田 |
024_011 |
ならばなぜ、捨てぬのです? 見たところ戦にも出られぬ様子。あなたにどんな利用価値があるというのです? |
氷室 |
025_011 |
『確かに、利用価値なんてない。善意で助けてもらって、働かせてもらってるだけで』 |
猿飛 |
026_004 |
この者は未来から来たと伊達さまに嘯(うそぶ)いているようです |
真田 |
027_012 |
まあ! まさかあなた、未来を教えると言って政宗に取り入っているわけではないでしょうね! |
氷室 |
028_012 |
違います! 未来からきたって言うのは本当です! たぶん |
真田 |
029_013 |
本当なのか、たぶんなのか、どちらなのです! |
氷室 |
030_013 |
だ、だって、分からないんです。目が覚めたら知らない場所にいて、政宗さまが助けてくれて |
真田 |
031_014 |
目覚めたのなら元いた場所にお戻りなさいな |
氷室 |
032_014 |
戻れないんです。どうやって戻ればいいか分からなくて |
真田 |
033_015 |
はぁ……あなたの話を信じる証拠はどこにありますの? |
氷室 |
034_015 |
証拠は、ないです |
真田 |
035_016 |
ふうん? ……ああ、分かりましたわ。政宗はあなたが物珍しいから手元に置いているのですね |
猿飛 |
036_005 |
さすがは伊達さま、真新しいものがお好きでいらっしゃる |
真田 |
037_017 |
ええ、そうでしたわね。政宗は新しいものが好き、斬新なものが好き、ええそうですわ。ならば問題ないですわね |
氷室 |
038_016 |
えっと、どういう意味でしょうか |
真田 |
039_018 |
あなたなど、すぐに飽きられて捨てられるということですわ |
氷室 |
040_017 |
捨てられる? |
真田 |
041_019 |
今は新しい玩具に夢中かもしれませんけど。利用価値もない、役にも立たない人間を傍に置く理由などありまして? 小動物のように愛らしければ愛玩用にもできますけれど |
猿飛 |
042_006 |
この娘では役不足かと |
真田 |
043_020 |
まったくですわ! ふふふ、ああ、疑問が解決できて胸がすっとしましたわ |
猿飛 |
044_007 |
幸村さまが喜ばれている。お前も喜べ |
氷室 |
045_018 |
ええ!? あ、う、うわーい? |
真田 |
046_021 |
小狸、せいぜい政宗に飽きられないようにしておくことですわね |
猿飛 |
047_008 |
! 幸村さま、伊達さまが到着されたようです |
真田 |
048_022 |
まぁ、政宗がわたくしに会いに!! では挨拶してきましょう。この槍、久しく使っていませんもの |
氷室 |
049_019 |
待ってください! どこに行くんです。政宗さまを傷つけるなら |
猿飛 |
050_009 |
お前は黙ってみていろ。幸村さまの邪魔をするな。どうせなにもできないのだから |
真田 |
051_023 |
腕が鳴りますわ。さ、参りますよ、佐助 |
猿飛 |
052_010 |
お供いたします、幸村さま |
真田と猿飛は出て行く |
氷室 |
053_020 |
そりゃ、なにもできないし、なんの役にもたたないけど……さらわれて、助けに来てもらっちゃってるし……なんでこうなるのかなぁ……ああもう泣きそう。けど泣かないよ。絶対、泣かないっ!! |
しばらくして伊達がくる |
伊達 |
054_001 |
ここか! くそ鍵がかかっている |
伊達が鍵を壊して入ってくる |
伊達 |
055_002 |
つむぎ、無事か!? |
氷室 |
056_021 |
政宗さま! |
伊達 |
057_003 |
すまない、危険な目に合わせたな。大事ないか? |
氷室 |
058_022 |
『利用価値のない私を、政宗さまが傍においてくれる理由はなんだろう』 |
伊達 |
059_004 |
まさか屋敷からさらうとは思っていなくてな |
氷室 |
060_023 |
『わたし、あのお城にいていいのかな』 |
伊達 |
061_005 |
どうした? けがをしたのか? どこか痛むか? |
氷室 |
062_024 |
あ、いえ、わたしは大丈夫です。政宗さまこそ、怪我なさったんですか? |
伊達 |
063_006 |
けが? していないが |
氷室 |
064_025 |
でも血が頬に |
伊達 |
065_007 |
ああ、歩兵を蹴散らしたときについたのだろう |
氷室 |
066_026 |
え? ……人を斬ったんですか? |
伊達 |
067_008 |
斬らなければ、ここに来れないぞ? |
氷室 |
068_027 |
『ここは、人を簡単に斬ったりする場所なんだ。そうだ、戦国時代なんだから……』 |
片倉も駆けつけてくる |
片倉 |
069_001 |
政宗さま、敵はすべて追い払いました。もう大丈夫です |
氷室 |
070_028 |
片倉さん |
片倉 |
071_002 |
まったく貴様は、政宗さまに迷惑をかけることしかできんのか! みすみすさらわれよって |
氷室 |
072_029 |
ごめんなさい |
片倉 |
073_003 |
反省するだけなら―― |
伊達 |
074_009 |
小十郎! 此度のことは我が城の警備に欠陥があるためにおきたことだ |
氷室 |
075_030 |
ごめんなさい、わたし |
伊達 |
076_010 |
……帰るぞ。つむぎが見つかった以上、ここにいる必要はない |
片倉 |
077_004 |
了解しました。馬を回してきます |
片倉が去る |
伊達 |
078_011 |
つむぎ、立てるか? |
氷室 |
079_031 |
た、立てます! うわ!? |
伊達 |
080_012 |
急に立つやつがあるか! まったく、こけるつもりなのか? |
氷室 |
081_032 |
『こけそうなわたしの手を取ってくれた政宗さまの手は血で赤い。――怖いって思っちゃ駄目』 |
氷室 |
082_033 |
ごめんなさい |
伊達 |
083_013 |
謝罪の言葉が聞きたいわけじゃない |
氷室 |
084_034 |
ご――うぅ |
伊達 |
085_014 |
つむぎ、どうしたんだ |
氷室 |
086_035 |
『怖くなんかない。政宗さまは優しい人だって知ってるから。でもわたしがお城にいなかったら、政宗さまの手が汚れることなんてなかったんだ。真田さんのところの誰かが傷つくこともなかった』 |
伊達 |
087_015 |
つむぎ? |
氷室 |
088_036 |
『飽きたら捨てられる。そのいつかに怯えるくらいなら、わたしは』 |
伊達 |
089_016 |
城に帰るぞ |
氷室 |
090_037 |
『わたしが、帰る場所は……』 |
夜 部屋 |
氷室 |
091_038 |
『お城に帰ると布団に押し込められた。政宗さまは何度か来てくれたけど、お話できないままで……』 |
片倉 |
092_005 |
つむぎ、入るぞ |
氷室 |
093_039 |
あ、片倉さん |
片倉 |
094_006 |
調子はどうだ |
氷室 |
095_040 |
けがしたわけでも、病気をしてるわけでもないんです、大丈夫です |
片倉 |
096_007 |
ああ、その、だな。先ほどはすまなかった、つい責めるような物言いをしてしまった |
氷室 |
097_041 |
いえ、本当のことですから |
片倉 |
098_008 |
……城の警護を強化することにした。もう真田の忍が入り込むことはない、安心するといい |
氷室 |
099_042 |
はい。あの、片倉さん。真田さんってどんな人か、聞いてもいいですか? |
片倉 |
100_009 |
真田さまか? 自分が知ることは少ないが、それでもいいなら |
氷室 |
101_043 |
お願いします |
片倉 |
102_010 |
真田家は元は武田に仕えていた。しかし武田は織田に滅ぼされた。そして織田が天下を統一すると誰もが思っていた |
氷室 |
103_044 |
それ知ってます。でも信長さまって本能寺で明智光秀に暗殺されるんですよね |
片倉 |
104_011 |
そうだ。そして織田のあと、徳川、北条、上杉、名だたる武将が己の天下を目指していたが、天が味方をしたのは豊臣だった。その頃、真田さまは人質だったと聞く |
氷室 |
105_045 |
人質?! |
片倉 |
106_012 |
そう珍しいことではない |
氷室 |
107_046 |
でも、人質ってことは、なにか起きたら責任取らされるんですよね。最悪殺されるとか |
片倉 |
108_013 |
最悪もなにも、少しきな臭い噂が立つだけで首を飛ばされる。捨て駒のようなものだ |
氷室 |
109_047 |
そんな |
片倉 |
110_014 |
真田さまはそんな中を勝ち進んできた。己の才能一つでな。そして政宗さまに出会ったのだ。同年代だから、珍しくもあったのだろう。互いに野心を抱き豊臣を見上げる様子は楽しげでもあった |
氷室 |
111_048 |
今は違うんですか? |
片倉 |
112_015 |
豊臣が完全に天下を取ってからは違うな。殊更、政宗さまに執着するようになった |
氷室 |
113_049 |
どうして |
片倉 |
114_016 |
分からん。最初は伊達の領土が欲しいのかとも考えていたのだが、違うようだしな |
氷室 |
115_050 |
政宗さまが欲しい? |
片倉 |
116_017 |
自分にはそう見える。あの執着は異常だ。幸か不幸か貴様は政宗さまの傍にいることを許された。だからつむぎ、用心していろ |
氷室 |
117_051 |
……護身術とか、習えますか? |
片倉 |
118_018 |
貴様がそれをまことに望み、政宗さまが頷けばな |
氷室 |
119_052 |
じゃあわたし、出て行ったほうがいいですよね? 政宗さまのご迷惑になるから |
片倉 |
120_019 |
は? |
氷室 |
121_053 |
えっと……その……政宗さま……怒ってますよね |
氷室 |
122_054 |
『助けてもらったのに、血が怖くて帰る途中も会話もしなかったし』 |
片倉 |
123_020 |
なにを言っている? |
氷室 |
124_055 |
だって勝手にさらわれて、迷惑かけちゃって |
片倉 |
125_021 |
はぁ、自分はしらん。……これを預かってきた |
氷室 |
126_056 |
お手紙ですか? |
片倉 |
127_022 |
政宗さまからだ |
氷室 |
128_057 |
政宗さまから!? |
手紙をあけて読もうとする氷室 |
氷室 |
129_058 |
……か、片倉さぁん |
片倉 |
130_023 |
な、なんだ、その気色の悪い声は |
氷室 |
131_059 |
達筆すぎて読めません |
片倉 |
132_024 |
はぁ!? 貴様、まさか字が読めんのか? |
氷室 |
133_060 |
わたしの知ってる字と違うんです。あの、なんて書いてあるか読んでもらうことは |
片倉 |
134_025 |
できん。主の手紙を読むなど、あり得ん |
氷室 |
135_061 |
ですよ、ね。せっかくお手紙もらったのに |
片倉 |
136_026 |
政宗さまに字を習うといい |
氷室 |
137_062 |
だ、駄目です! |
片倉 |
138_027 |
なに? |
氷室 |
139_063 |
字を習うのはいいんですけど。政宗さまはお忙しいから、他の人に――片倉さん! |
片倉 |
140_028 |
断る |
氷室 |
141_064 |
そんなこと言わずに! このお手紙、読みたいんです! |
片倉 |
142_029 |
ならば素直に政宗さまに習え |
氷室 |
143_065 |
いやです! は? まさか文字も読めないのか? って顔されたら心が折れます! |
片倉 |
144_030 |
さっき自分もしただろう、まさにそれを |
氷室 |
145_066 |
政宗さまにされると立ち直れません!! |
片倉 |
146_031 |
ああくそ、政宗さまの元に行き、音読してもらえばいいだろう |
氷室 |
147_067 |
そ、れは、そう! お仕事があるっていつも片倉さん言うじゃないですか。そんな中、私に時間を割いちゃったら、政宗さまの時間がなくなっちゃいますし |
片倉 |
148_032 |
お気になさらないと思うが |
氷室 |
149_068 |
私が気にするんです! |
片倉 |
150_033 |
……つむぎ、真田さまになにを吹き込まれたかは知らんが、あれこれと想像するな。それは無駄なことだ |
氷室 |
151_069 |
うう、でも |
片倉 |
152_034 |
ここでべそをかいて泣きごとを言ったところで事態は好転しない |
氷室 |
153_070 |
分かってるんですけど |
片倉 |
154_035 |
分かっているならしゃきっとしろ! |
氷室 |
155_071 |
ううう、片倉さんの意地悪ですー! そんなんじゃ身長縮むんですからね! |
片倉 |
156_036 |
縮むか馬鹿者!! |