役名 |
番号 |
台詞 |
※『』はモノローグです |
○部屋(朝) |
氷室 |
001_001 |
ふぁああ、ねたぁー。……っは! いま、何時!? あ、時計ないんだった。まずいよ、どうしよう、もう朝ごはんの仕度とか終わって―― |
片倉 |
002_001 |
すでに昼だ |
氷室 |
003_002 |
びぁああ!! あ、片倉さん、おはようございます |
片倉 |
004_002 |
昼だと言ったはずだが……昼餉の準備が整った。食べるか? |
氷室 |
005_003 |
もちろんです! 政宗さまが作ってくれたんですよね! |
片倉 |
006_003 |
そうだな |
氷室 |
007_004 |
朝ごはん食べれなかったぁあ。ああ、ショック |
片倉 |
008_004 |
貴様はもう少し、人を疑うことを覚えたほうがいいな |
氷室 |
009_005 |
いやです。わたし、ただでさえ満身創痍(まんしんそうい)なんですから、政宗さまと片倉さんは疑わないって決めたんです! |
片倉 |
010_005 |
……それでは |
氷室 |
011_006 |
決めたんです |
片倉 |
012_006 |
勝手にしろ。自分はもう行くぞ |
氷室 |
013_007 |
ああ、待ってください。いま着替えますからー! |
○広間 |
政宗に抱きついている幸村 |
真田 |
014_001 |
政宗!! |
伊達 |
015_001 |
帰れ |
真田 |
016_002 |
久しぶりですね。会いたかったですわ |
伊達 |
017_002 |
私は会いたくなかった! |
真田 |
018_003 |
そんな、照れ隠しにつれない態度をとらなくてもいいのですよ? |
伊達 |
019_003 |
誰だ、こいつを私の屋敷に入れたのは! |
真田 |
020_004 |
ふふふ。門番には追い返されてしまいしたので、こそっと入ってみましたの |
伊達 |
021_004 |
不法侵入者か、いいだろう斬り捨ててくれる |
真田 |
022_005 |
まぁ、わたくしの槍は、いつでも政宗のために研いでいますのよ? |
片倉たちが来る |
片倉 |
023_007 |
政宗さま、つむぎを連れてきました |
伊達 |
024_005 |
ああ、起きたか、つむぎ。うん、顔色もよくなってきたな |
氷室 |
025_008 |
あ、ありがとうございます、政宗さま |
真田 |
026_006 |
まぁまぁその子ですか? 政宗が拾った小狸とは。ふぅううん |
真田が氷室をジロジロとみて回る |
氷室 |
027_009 |
あ、あの、えっと |
伊達 |
028_006 |
勝手に見るな、減る! おい小十郎、幸村をどうにかしろ |
片倉 |
029_008 |
政宗さまの手に負えぬ輩を、この小十郎がどうにかできるわけがございませぬ! |
伊達 |
030_007 |
威張るな! |
真田 |
031_007 |
わたくしは真田幸村です |
氷室 |
032_010 |
あ、わたしは氷室つむぎといいます。よろしくお願いします、真田さん……ん? 真田、幸村!? うぇえ、また女の人!? |
伊達 |
033_008 |
知っているのか? |
氷室 |
034_011 |
ちょっとなら。政宗さまのライバルだって |
片倉 |
035_009 |
らいばる? |
氷室 |
036_012 |
好敵手って意味です |
真田 |
037_008 |
あらあら、ふふふふ。わたくしが政宗の好敵手ですの? 嬉しいですわ。でも残念、わたくしは政宗の好敵手ではなく婚約者です! |
氷室 |
038_013 |
そうなんですか!? |
伊達 |
039_009 |
違う! こいつが勝手に言っているだけだ、本気にするな、つむぎ |
真田 |
040_009 |
どうして話を受けてくれませんの? 真田と伊達が同盟を結んだいま、さらに強固な結びつきをするのがいいことくらい、政宗にも分かっていますでしょう? |
伊達 |
041_010 |
だからと、なぜ私とおまえが婚約しなくてはいけない |
真田 |
042_010 |
それはもちろん、わたくしが政宗を愛しているからです |
伊達 |
043_011 |
残念だが、ほかを当たってくれ |
真田 |
044_011 |
こんな小狸を召抱えるくせに、わたくしには見向きもしないなんて! どうしてですの政宗、わたくしのなにが気に入らないというのです! |
伊達 |
045_012 |
全部だ |
真田 |
046_012 |
ひどいですわ! こんなにも愛しているのに!! |
伊達 |
047_013 |
やめろ触るな! |
片倉 |
048_010 |
つむぎ、食事だ |
氷室 |
049_014 |
でも、いいんですか? 政宗さま、嫌がってますけど |
片倉 |
050_011 |
いつものことだ、気にするな |
氷室 |
051_015 |
『本気で逃げてる気がするんだけどなぁ』 |
片倉 |
052_012 |
その、なんだ。その汁物は自分も手伝った |
氷室 |
053_016 |
え? じゃあ一口! うう、にんじんが固いです、片倉さん |
片倉 |
054_013 |
む、まだ精進が足りないか。すまん、下げよう |
氷室 |
055_017 |
いえいえ、食べますよ! これ全部わたしのですから、とっちゃ駄目です! |
片倉 |
056_014 |
しかし、火が通っていないのでは硬いだろう |
氷室 |
057_018 |
硬くたって食べれます!! あ、そうだ。今日はなにをお手伝いすればいいですか? |
片倉 |
058_015 |
今日は、そうだな。家のことは手が足りている。政宗さまにお伺いしてみるといい |
氷室 |
059_019 |
でも昨日までやることいっぱい余って |
片倉 |
060_016 |
今日の仕事は政宗さまから聞け! いいな!! |
氷室 |
061_020 |
はい! 分かりました!! じゃあ政宗さま――って |
真田 |
062_013 |
さぁ政宗、わたくしと一緒に真田の土地へ参りましょう? |
伊達 |
063_014 |
行かん!! |
真田 |
064_014 |
そんな粗野な眼帯より、わたくしが選んだものを身につけて―― |
伊達 |
065_015 |
触るな! |
伊達が真田の手をはねのける |
片倉が殺気立つ |
片倉 |
066_017 |
真田さま、それ以上、政宗さまに近づかれますとこの小十郎、腰のものを抜かねばなりませぬが、よいですか? |
ちょっと剣呑な雰囲気になる |
真田 |
067_015 |
政宗の腰ぎんちゃくが、わたくしに敵うと思って? |
片倉 |
068_018 |
政宗さまより離れられよ |
真田 |
069_016 |
……ふう。真田の地に来れば、あなたのことを悪しざまに言う者など、わたくしが散らしてみせますのに |
伊達 |
070_016 |
……私のことは私がする、おまえが手を出すことではない |
政宗は広間を出て行く |
真田 |
071_017 |
あ、政宗、どこに行きますの! ――行ってしまいましたわ。なにが気に入らないというのです。もういいですわ、今日は帰ります。また来ると政宗に伝えなさい |
片倉 |
072_019 |
……承知いたしました |
真田 |
073_018 |
つむぎ、でしたか? 政宗はわたくしのものですから、いいですわね? |
氷室 |
074_021 |
え、っと、でも、政宗さまは違うって |
真田 |
075_019 |
政宗はわたくしのものです! いいですね? では |
真田が去る |
氷室 |
076_022 |
こ、怖かった。いろんな意味で |
片倉 |
077_020 |
戦場では政宗さまにひけを取らないお方だ。あの方の前では、不用な発言をするなよ |
氷室 |
078_023 |
気をつけます。でも政宗さま、どこ行ったんだろう |
片倉 |
079_021 |
さあな |
氷室 |
080_024 |
探してきます |
片倉 |
081_022 |
そっとしておけ |
氷室 |
082_025 |
政宗さまに会って、一人にしてほしいって言われたら、そうします |
片倉 |
083_023 |
そうか……そうだな、政宗さまはきっと東屋(あずまや)だ |
氷室 |
084_026 |
ありがとうございます、片倉さん |
○東屋 |
氷室 |
085_027 |
『どこに行ったんだろう。東屋に来てみたけど……そういえば伊達政宗の眼帯って、どうしてつけてるのか知らないなぁ。聞いたら教えてくれるかな。あ、いた!』 |
伊達 |
086_017 |
…… |
氷室 |
087_028 |
『あああ、お綺麗な横顔!! 美人だなぁ、いいなぁ。わたしももう少し華やかな顔立ちしてれば。もしくは、あとちょっとでも胸が大きいとか』 |
氷室が足を踏み出し音が鳴る |
氷室 |
088_029 |
あ |
伊達 |
089_018 |
誰だ! ……ん? ああ、つむぎか |
氷室 |
090_030 |
ご、ごめんなさい。お邪魔してしまって |
伊達 |
091_019 |
邪魔ではないぞ |
氷室 |
092_031 |
あの政宗さま、傍にいってもいいですか? |
伊達 |
093_020 |
ああ、構わない |
氷室 |
094_032 |
隣に座ってもいいですか? |
伊達 |
095_021 |
いちいち聞かなくても好きに座れ |
氷室 |
096_033 |
1人でいたい時もあるかなって |
伊達の隣に座る氷室 |
伊達 |
097_022 |
……すまなかったな、驚いただろう |
氷室 |
098_034 |
真田幸村まで女だったのには驚きました |
伊達 |
099_023 |
武将は大概が女だぞ? 豊臣も徳川も |
氷室 |
100_035 |
私の知ってる歴史では全員、男の人なんですよ? |
伊達 |
101_024 |
あの幸村が男……想像できん |
氷室 |
102_036 |
あははぁ……政宗さまは真田さんが苦手なんですか? |
伊達 |
103_025 |
あいつには遠慮というものがないからな |
氷室 |
104_037 |
昔からの知り合いなんですか? |
伊達 |
105_026 |
そうでもない。豊臣の屋敷で会ってからだから、おおよそ7年くらいか? |
氷室 |
106_038 |
伊達と真田って同盟を組んだんですか? |
伊達 |
107_027 |
北条が破れ、豊臣の世になった際にな。まぁ、続くかは定かでないが |
氷室 |
108_039 |
? どういうことです |
伊達 |
109_028 |
幸村はああ見えても義理堅い。豊臣に忠誠を誓っている以上、豊臣から動くことはないだろう。だがあれの父はそうでない |
氷室 |
110_040 |
真田が同盟を破って、豊臣を攻めるってことですか? |
伊達 |
111_029 |
そうならないように、より強い繋がりを欲しがって、婚約だのわけの分からんことを言い出している |
氷室 |
112_041 |
……強いつながりができるのに、政宗さまがしない理由は |
伊達 |
113_030 |
真田の動向が読めないし、真田と深く関わると徳川が睨んでくるだろう。あとは……純粋に幸村は好みでない |
氷室 |
114_042 |
あ、それじゃ駄目ですね |
伊達 |
115_031 |
だろう? ――つむぎも眼帯が気になるか? |
氷室 |
116_043 |
え? |
伊達 |
117_032 |
見苦しいだろう? |
氷室 |
118_044 |
そんなことないですよ! すごく格好いいです! |
伊達 |
119_033 |
変わっているな。片目など、笑いものになるだけだぞ? |
氷室 |
120_045 |
いいえ、そんなことありません! その、ほら、政宗さまは格好いいし美人だから、両目揃っちゃったら人気者になりすぎるんですよ。だから神さまが、嫉妬しちゃったんですよ |
伊達 |
121_034 |
神が嫉妬した? |
氷室 |
122_046 |
そう、そうですよ! お前、美人過ぎる、ずるいだろう! って |
伊達 |
123_035 |
は、ははは! そうか、神が私を妬んだのか。それでは仕方ないな |
氷室 |
124_047 |
『あれ、笑っちゃった? もしかして神さま出しちゃ駄目だった? 仏さまの方がよかった!?』 |
伊達 |
125_036 |
……幼少期に病に倒れおり、右目の視力が尽きてな、眼球の色が変わってしまったんだ。母はそんな私を、おぞましいものを見るかのように睨んでいた |
氷室 |
126_048 |
視力が尽きたって |
伊達 |
127_037 |
死ぬ瀬戸際だったらしい。覚えていないがな。母の視線がいやだった私は小十郎に頼んだんだ、この目を抉り取ってくれと。いや、痛かった |
氷室 |
128_049 |
痛かったって、そんな笑って言えるようなことじゃないですよね! |
伊達 |
129_038 |
小十郎にはすまないことをした |
氷室 |
130_050 |
政宗さまも大胆すぎますよ! |
氷室 |
131_051 |
『あれ? 片倉さんって政宗さまより年下だよね。目を抉り出したって、そんな小さな子にできるの?』 |
伊達 |
132_039 |
だがそれ以降、眼帯をつけた私を母が睨むことはなかった。嬉しそうに言われたよ、これでようやく普通の子になったと |
氷室 |
133_052 |
違いますよ。政宗さまはずっと普通の子ですよ! 目の視力がなくなってしまうことだって、瞳の色が違うのだって、普通にあることです! |
伊達 |
134_040 |
……そうなのか? |
氷室 |
135_053 |
私がいたところではありました! |
伊達 |
136_041 |
そうか。つむぎのいた場所では普通なんだな |
氷室 |
137_054 |
政宗さま |
伊達 |
138_042 |
うん、しみったれた話はここまでにしよう。悪いな、こんな話を聞かせるつもりではなかったんだが |
氷室 |
139_055 |
いえ |
伊達 |
140_043 |
さて、今日はどうしようか |
氷室 |
141_056 |
あ、わたし、今日のお仕事を政宗さまからお伺いするようにって片倉さんに言われたんです |
伊達 |
142_044 |
そうか。なら、つむぎのいた場所の話を聞かせてくれるか? |
氷室 |
143_057 |
わたしの話ですか? いいですけど、楽しくないと思いますよ? |
伊達 |
144_045 |
そんなことはない、つむぎは私の知らないことをたくさん知っている。おまえの話は楽しい |
氷室 |
145_058 |
わたしでいいなら、どんな話でもしますよ! |
伊達 |
146_046 |
それは楽しみだ |
○真田家 |
真田 |
147_020 |
佐助 |
猿飛 |
148_001 |
は、ここに |
真田 |
149_021 |
政宗のところにいる、氷室つむぎとかいう小娘を調べなさい |
猿飛 |
150_002 |
伊達さまが拾ってきた娘ですか |
真田 |
151_022 |
ええ。ことと次第によっては、秀吉さまにご報告しないといけませんもの |
猿飛 |
152_003 |
御意に |
真田 |
153_023 |
ふふふ、楽しくなりそうね、政宗 |