役名 |
番号 |
台詞 |
シーン2 |
※『』はモノローグです |
○屋敷 |
氷室 |
001_001 |
『家への帰り方が分からないわたしは、政宗さまがいるお城、岩出山城(いわでやまじょう)で働かせてもらえることになりました。でも、でも!!』 |
氷室 |
002_002 |
お城、大きいよぉ!! 掃除が終わらないよぉー! |
伊達 |
003_001 |
ははは、大きな声だな、つむぎ |
氷室 |
004_003 |
あ、政宗さま。おはようございます |
伊達 |
005_002 |
おはよう。……どうだ、少しはここの暮らしになれたか? |
氷室 |
006_004 |
えっと、はい、大丈夫です! |
氷室 |
007_005 |
『夜、眠れないなんて言えない』 |
伊達 |
008_003 |
本当か? 顔色がよくないが。食事があわないか? 好きな物があれば、用意してやれるが |
氷室 |
009_006 |
いえいえ、お食事とっても美味しいです! 今日だっておかわりしましたし |
伊達 |
010_004 |
そうか。そう言ってもらえると作りがいがあるな |
氷室 |
011_007 |
今日も出てきた、あのふわふわで甘いやつ、大好きです! |
伊達 |
012_005 |
あれは伊達巻といって、白身魚のすり身に溶き卵と出汁を加え、みりんで調味してから焼き上げている。私の好物の一つだ |
氷室 |
013_008 |
伊達巻って |
伊達 |
014_006 |
私が好きだからか、そう呼ばれるようになったらしい |
氷室 |
015_009 |
本当ですか!? |
伊達 |
016_007 |
くくく、いや、そういう話もあるが。着物に使うだて巻に形が似ているだろう? そこから命名されたらしい |
氷室 |
017_010 |
へー、そうなんですかー |
氷室 |
018_011 |
『着物のだて巻って、どこの部分だろう。あとで片倉さんに聞こう』 |
氷室 |
019_012 |
でもお食事って誰が作られてるんですか? 本当にお礼を言いたい味ですよ |
伊達 |
020_008 |
うん? 私だな |
氷室 |
021_013 |
……えと。政宗さまはお城の主さま、ですよね? |
伊達 |
022_009 |
そうだが。なぜ今更そんなことを聞く? |
氷室 |
023_014 |
え、ぇえ!? 政宗さまがご飯作ってるんですか!? |
伊達 |
024_010 |
ああ、美味しい物を食べると元気が出るだろう |
氷室 |
025_015 |
そうですけど! でもそういうのって普通、その、お料理する人にしてもらうんじゃ |
伊達 |
026_011 |
主人自ら客人をもてなすのが、私の流儀だ |
氷室 |
027_016 |
客人って、まさか |
伊達 |
028_012 |
立場上つむぎは家人だが、私にとっては客人だな |
氷室 |
029_017 |
お、お手伝いもせず、ごめんなさい! |
伊達 |
030_013 |
なに謝る必要はない。料理は好きだからな。食べて喜んでもらえると嬉しいだろう |
氷室 |
031_018 |
うらやましい。私なんてご飯はお惣菜を買ってくるとか、電子レンジでチンできるものだとか……女子力なんて物理しか持ってないのに |
伊達 |
032_014 |
女子力とはなんだ? つむぎ |
氷室 |
033_019 |
女の子らしい事ができるレベル……えっと、修練度のことです。お料理とかお掃除とかお洗濯とか。政宗さまは女子力高いです。いつもお綺麗で! 本当に、ため息出るくらい綺麗です!! |
伊達 |
034_015 |
そうか? 身だしなみを整えるのは当然だと思うんだが。ん? ならば女子力の物理とはなんだ |
氷室 |
035_020 |
えーっと、拳の力、でしょうか |
伊達 |
036_016 |
女らしさの項目に拳の力があるとは知らなかったな。なるほど、つむぎは戦上手ということか。ならば今度、戦場にでも出るか? |
氷室 |
037_021 |
うそうそ、うそです! 女子力物理もわたし、底辺です! |
伊達 |
038_017 |
ははは、期待しているぞ |
氷室 |
039_022 |
政宗さまぁ〜 |
伊達 |
040_018 |
……つむぎ |
氷室 |
041_023 |
え? あ、はい |
伊達 |
042_019 |
本当に無理はしていないか? |
氷室 |
043_024 |
えっと、はい、大丈夫です。元気ですから! |
氷室 |
044_025 |
『迷惑かけないようにしないと。追い出されたら行くところないし。お金だってまだ全然ない。大丈夫、テスト前の一夜漬けで鍛えた体力は顕在だから!』 |
遠くから片倉が氷室を呼ぶ |
片倉 |
045_001 |
おい、つむぎー。こっちを手伝ってくれ |
氷室 |
046_026 |
はーい! ごめんなさい、政宗さま |
伊達 |
047_020 |
ああ、行ってこい |
氷室 |
048_027 |
はい! |
○屋敷(昼) |
家人 |
049_001 |
つむぎさん、今の掃除をお願いします |
氷室 |
050_028 |
はーい! |
家人 |
051_002 |
つむぎさん、皿洗いを頼みます |
氷室 |
052_029 |
はいはーい! |
家人 |
053_003 |
つむぎさん、あなたやる気あるんですか? 掃除は中途半端、洗い物もろくにできず、政宗さまが是非にとお声をかけた相手だからと期待していたのに |
氷室 |
054_030 |
すみません! もう一度やらせてください、次は上手くやります! |
家人 |
055_004 |
何事も次の機会をいただけると思っていませんか? この城は政宗さまのおわします場所。役に立たぬ穀潰(ごくつぶ)しがいていい場所ではありません! よくよく覚えていらして |
家人が去る |
氷室 |
056_031 |
あー……だめだなぁ。掃除も食器洗いも、量が多いし、水仕事すると手が痛い……昔の人って、こんな風に頑張ってたんだ |
片倉 |
057_002 |
つむぎ、なにをしている |
氷室 |
058_032 |
あ、片倉さん。おつかれさまです |
片倉 |
059_003 |
手を握って、どうした。けがか? |
氷室 |
060_033 |
いえ。大丈夫です。なにかお手伝いすることありますか? |
片倉 |
061_004 |
仕事熱心なのはいいことだ。政宗さまもこうあってくだされば |
氷室 |
062_034 |
また脱走しちゃったんですか? |
片倉 |
063_005 |
今日は客人が来られるので、夕刻には帰ってくると思うのだが |
氷室 |
064_035 |
わたし、探してきましょうか? きっと城下にいますよね |
片倉 |
065_006 |
貴様を1人で城下に出せば、二度と帰ってこないだろう、却下だ |
氷室 |
066_036 |
そんなに方向音痴じゃありませんよ |
片倉 |
067_007 |
……つむぎ、政宗さまの治めるこの場所は治安が比較的いい。だが、貴様が1人で出歩けるほどではない |
氷室 |
068_037 |
そう、なんですか? |
片倉 |
069_008 |
貴様の外出には必ず政宗さまが同行くださるだろう。そういうことだ。貴様が1人で出た暁には、浚われて売られて死ぬな |
氷室 |
070_038 |
そ、そんなに治安悪いんですか!? |
片倉 |
071_009 |
城下の娘共は自分で警戒し、悪漢を撃退する術を身につけているが、貴様は |
氷室 |
072_039 |
できないと思います |
片倉 |
073_010 |
そういうことで、城下への人探しは頼めない |
氷室 |
074_040 |
ごめんなさい、お役に立たなくて |
片倉 |
075_011 |
貴様には貴様の仕事がある。それをこなすだけで十分なのだ。自分が政宗さまを捕らえてくる。つむぎは政宗さまの部屋に茶を運んでくれ |
氷室 |
076_041 |
……はい |
片倉 |
077_012 |
つむぎ |
氷室 |
078_042 |
だ、大丈夫です! 頑張れます! |
片倉 |
079_013 |
そうか、頼むぞ |
氷室 |
080_043 |
はい! |
○部屋(夜) |
布団の中でゴロゴロしている氷室 |
氷室 |
081_044 |
ううん、うーん、眠れないなぁ。枕が硬いからかなぁ。疲れてるはずなのに……いつ帰れるんだろう。どうやったら……いやいや、弱気になっちゃ駄目。命があるんだから、なんとかなる! 頑張ってお金をためれば他の場所にだって行けるかもだし。くじけるにはまだ早い、大丈夫、だいじょうぶ |
伊達 |
082_021 |
つむぎ、起きているか? |
氷室 |
083_045 |
!? 政宗さま? 起きてますよ |
障子を開けて伊達が部屋に入ってくる |
伊達 |
084_022 |
ああ、起きていたか。こんな夜更けに起きているのは関心しないな |
氷室 |
085_046 |
そういう政宗さまだって起きてるじゃないですか |
伊達 |
086_023 |
私は城の主だからいいんだ |
氷室 |
087_047 |
えー、ずるいですよ |
伊達 |
088_024 |
……眠れないのか? |
氷室 |
089_048 |
え、えっと |
伊達 |
090_025 |
家に帰れないおまえが、見知らぬ土地で不安にならないわけがなかったな。すまない、配慮が足りなかった |
氷室 |
091_049 |
いえ、いいんです! わたし、けっこう図太いので、慣れればすぐ寝れますよ |
伊達 |
092_026 |
慣れるまではどうするつもりだ? おまえがここにきて一週間が経つが、眠れないのだろう? |
氷室 |
093_050 |
限界まで働いたら! |
伊達 |
094_027 |
体力を使いきって寝るのは、寝るではなく倒れるだ |
氷室 |
095_051 |
ですよ、ね |
伊達 |
096_028 |
ふぅ……酒は呑めるか? |
氷室 |
097_052 |
お酒ですか? はい! |
伊達 |
098_029 |
なんだ、酒が好きだったのか。なら寂しく1人で手酌するのではなく、つむぎを呼べばよかったな |
氷室 |
099_053 |
お注ぎしましょうか? |
伊達 |
100_030 |
共に呑んでくれるのならな。ほら、小十郎から隠して持ってきたんだ。誉めてくれ |
氷室 |
101_054 |
あ、いけないんですよ |
伊達 |
102_031 |
つむぎも呑むのだから共犯だな |
氷室 |
103_055 |
喜んで! 《呑む》っう、わ、これ、度数きついですね |
伊達 |
104_032 |
そうか? 普通だと思うが |
氷室 |
105_056 |
あはは、わたし、カクテルしか飲んだことがないので |
伊達 |
106_033 |
かくてる? ……つむぎは私の知らない言葉をたくさん知っているな |
氷室 |
107_057 |
政宗さまは聞かないんですね。私がどこの誰で、どうしてあの場所に倒れてたのかとか |
伊達 |
108_034 |
うん? おまえは氷室つむぎで、あの場所に倒れていたのは崖から落ちたからだろう? |
氷室 |
109_058 |
うそかもしれないじゃないですか。織田とか、豊臣の間者とかの可能性だってあります |
伊達 |
110_035 |
屋敷の者が噂をしているな。気にするな、と言っても気になるか |
氷室 |
111_059 |
私がきちんと説明できればよかったんですけど |
伊達 |
112_036 |
無茶な仕事を振られていると聞いたが |
氷室 |
113_060 |
無茶じゃないんです、他の人はできてるんですから。わたしが、下手糞なだけで。……掃除機もないし、洗濯機もないから |
伊達 |
114_037 |
新しい言葉だな、それはなんだ? |
氷室 |
115_061 |
押しただけで埃を吸い取ってくれる道具と、設定すると自働で衣類を洗ってくれる道具です |
伊達 |
116_038 |
凄いな、つむぎはそれらがある場所にいたんだな |
氷室 |
117_062 |
全部のことを自分だけでするのがこんなに大変で、しんどいなんて思ったことなかったんです。……あの政宗さま、聞いてくれますか? |
伊達 |
118_039 |
聞いて構わないのか? |
氷室 |
119_063 |
いま言わないと、きっとずっと言えないと思うんです |
伊達 |
120_040 |
好きにすればいい。酒の席だ、明日起きた時には忘れているかもしれない |
氷室 |
121_064 |
……わたし、未来から来たんです |
伊達 |
122_041 |
そのミライとは土地の名ではなく、ここより先の時間ということであっているか? |
氷室 |
123_065 |
そうです。政宗さまや織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、徳川家康を知っているのがその証拠、にはなりませんか? |
伊達 |
124_042 |
どうだろうなぁ。どれもが名だたる武将たちだ、知っていても不思議ではない |
氷室 |
125_066 |
そうですか。わたしがいた未来では伊達政宗は男の人なんです |
伊達 |
126_043 |
っぶ! 私が男? はは、楽しそうだ |
氷室 |
127_067 |
あと、皆さんが生まれる時期も、ちょっと違います。伊達政宗は戦国時代に遅れてきた武将って言われてたんです。織田信長や豊臣秀吉が天下取りする時代にはいなかったはずです |
伊達 |
128_044 |
……つむぎ、それではこの時間の先のは、おまえの未来に繋がらないんじゃないか? |
氷室 |
129_068 |
そうなんです。だから、どうやったら帰れるのかとか、全然分からなくて。パラレルワールドなのかなって |
伊達 |
130_045 |
ぱられる? |
氷室 |
131_069 |
とても似ているけれどなにかが違う世界のことです。それが、ここなのかなって。未来が繋がってても、どうやって帰ったらいいのか分からないのに、パラレルワールドじゃ、もう本当に、帰れないんじゃないかなって |
伊達 |
132_046 |
……そうか。帰り方、な |
氷室 |
133_070 |
ここが嫌だとか、そんなこと全然ないんですけど。でも、いきなりすぎて |
伊達 |
134_047 |
そう言えば、誰かと共に森に入ったと言っていなかったか? |
氷室 |
135_071 |
はい。友達と |
伊達 |
136_048 |
その者たちを探してみるのはどうだ? 私が見つけたのはつむぎ1人だが、友人もこちらに来ているかもしれない |
氷室 |
137_072 |
そんな都合よく来てますかね |
伊達 |
138_049 |
つむぎが来たんだ。友人が来ていてもおかしくないだろう? |
氷室 |
139_073 |
……そうですね。あと戻る方法は、来たときと同じことをするってのが、お約束なんですけど |
伊達 |
140_050 |
あの崖から落ちたら死ぬぞ? |
氷室 |
141_074 |
です、よね |
伊達 |
142_051 |
ん? つむぎ、眠いのか? |
氷室 |
143_075 |
あれ? どうしてだろう、なんだか、ねむくて |
伊達 |
144_052 |
眠れるなら寝たらいい |
氷室 |
145_076 |
でも、政宗さまが |
伊達 |
146_053 |
私のことは気にするな。寝ていろ |
氷室 |
147_077 |
はい……ありがとう、ございます |
つむぎ、寝る |
片倉 |
148_014 |
酒が呑めぬのに持ち出すので、何事かと思いましたよ |
伊達 |
149_054 |
隠れるくらいなら出てくればいいだろう、小十郎 |
片倉 |
150_015 |
自分は、つむぎが不審な動きをしないか監視しているだけですから |
伊達 |
151_055 |
つむぎは呑めるようだな |
片倉 |
152_016 |
政宗さまはあまりお呑みにならないでくださいね。後々大変ですから |
伊達 |
153_056 |
分かっている。しかし……家人らには言い聞かせなければ |
片倉 |
154_017 |
政宗さま……つむぎが間者でない証拠はどこにもありません |
伊達 |
155_057 |
間者である証拠もどこにもないな |
片倉 |
156_018 |
未来から来たなど、馬鹿げています |
伊達 |
157_058 |
なぜ、うそだと決めつけてしまうんだ、おまえは |
片倉 |
158_019 |
政宗さまになにかあれば、この小十郎、死んでも死にきれません。つむぎとは少し距離をおあけください |
伊達 |
159_059 |
断る |
片倉 |
160_020 |
政宗さま! |
伊達 |
161_060 |
最初に言ったはずだ。つむぎは私が助けた。私が面倒を見るとな |
片倉 |
162_021 |
なにかあってからでは遅いのですよ? |
伊達 |
163_061 |
この小娘相手に私が引けを取ると、お前はそう言いいたいのか? |
片倉 |
164_022 |
……はぁ。家人らに、つむぎへの嫌がらせをやめるよう、注意しておきます |
伊達 |
165_062 |
そうしてくれ。しかし、未来を知っている、か |
片倉 |
166_023 |
政宗さま |
伊達 |
167_063 |
本当なら、手放してはやれないな |